第1章

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 こちらに身を乗り出して問題を指で差す。彼はいつもと変わらない堅固な表情に戻っていた。こうなってしまうと、もう表情から感情は読み取れない。ただ真剣な眼で教えてくれるから、それに応えようと思う。  教えてくれた部分をノートに書いていく。今はできることをするしかない。  架くんは頭が良い。だがそれだけじゃない。私の手が止まったのをちゃんと見て、どこで悩んでいるのかを判断する。その上で、どこが悪いのかを指摘してくれる。ただしまず私に自己分析させるのだ。  架くんの個人指導はチャイムが鳴るまで続いた。 「頭が痛い……」 「初日にしては良くやった。これをやろう」  鞄からブルーベリーチョコと缶コーヒーだった。 「ぬるいのは許せ」  架くんは自分の席に戻っていく。  見渡せば、教室には生徒が集まっていた。時計を見ると、ホームルームまであと少しだった。  チョコと缶コーヒーってカロリーが高そうだなと思っていた。  疲れた所に甘い物を、眠気が覚めるようにとコーヒーを、か。 「それじゃあお前ら席につけー」  先生の号令に合わせて、クラスメイトが席に戻っていく。先生は今日の予定を話す中、私は別のことを考えていた。  私が思う以上に気が利く人なんだなと、架くんに対して思っていた。  彼を一人の人間として気になっていた。厳しいけれど優しい。本当は何を考えているのか、無性に気になった。 「ねぇねぇ陽」  先生がホームルームを初めてすぐ、後ろの席の藤堂環(とうどうたまき)が声を掛けてきた。いつものように身を乗り出している。授業中によく話掛けてくるが、それでよく怒られていた。  私と環は保育園からの知り合いだった。保育園と小学校は、クラスが違うのもあり友達というほどの間柄ではなかった。たまに顔を合わせる程度。この関係が友達になったのは、同じクラスになった中学校からだ。 「ちょっと、先生に見付かったらまた怒られるよ」 「大丈夫大丈夫。それよりも、竜胆寺くんとあんなに仲良かったっけ?」 「んー、ちょっと事情があってね。詳しくはまた話すよ」  環には説明をした方がいいかもしれない。 「お昼休みにでも頼むね」
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