第1章

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 無駄に絡んでくる割に引き際を心得ている。誰に対してもフレンドリーだが、少し話せば相手のパーソナルスペースを理解する。近寄るけれど踏み込まない。もしも踏み込む際には、相手との距離感を大事にする。それを余計な計算ではなく感覚でわかっているのが、この子のすごいところだ。そんな環には友人も多いのだが、周りの友人よりも私と会話したがる。なんだろう、ちょっとだけ嬉しい。  いろいろと考えているうちにチャイムが鳴った。 「よし、さっきの話を聞かせてくれ!」 「さっきお昼休みって言ったじゃないですか……」  そんな彼女はちょっとお馬鹿だった。 「それで、今朝の話の続きをたのもう」  屋上で女子が二人、昼食を摂りながらのガールズトークだ。お弁当持参ではなく、購買で買ったパンというのが女子力の低さをうかがわせる。 「要約するとね、架くんの家に住むことになったんだ」 「そりゃすごいね、いろんな意味で」 「ここは驚くところだし突っ込むところだし詳しく訊くところだからね」 「そうか、じゃあ訊くか。なんで竜胆寺くんの家に住むことになったんだ?」  あまり深く考えると疲れるが、天真爛漫(てんしんらんまん)な性格には慣れている。  私は先輩にフラれたこと、それを架くんに見られたこと、それに架くんに言われたことを全て話した。思い出して、少し感傷に浸ってしまう。  架くんのおかげか多少は気が紛れたけれど、それでも昨日の出来事に変りはない。  一通り話終えたところで、パンの残りを口に詰め込み、いちごラテで流し込んだ。 「よしよし、いろいろあったんだねー」  頭を撫でられた。テストの点数が悪かったとき、体育で失敗したとき、何かがあって落ち込んだときはこうして撫でてくれる。その柔らかい手で撫でられると、少し落ち着く。 「陽の髪はサラサラで気持ちよいのぉ」 「私が唯一自信を持てる部分なのよぉ」  抱きついて、胸に顔をうずめた。環のFカップは最高に気持ちが良い。 「たぶん陽も気付いてると思うんだけど、竜胆寺くんに悪気はないんじゃないかな」 「うん、それはわかってる。わかってるんだけど、やっぱり引っかかるんだよ」 「なんで自分なのかって? 深く考えることもないんじゃない? あの完璧超人から見れば、そういう不甲斐ない部分が許せないとか」 「そんな単純な話でいいのかね」 「とりあえず今はそれでいいじゃーん」
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