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「中学生の時から好きだったんです……私と付き合ってください……!」
放課後の体育館裏には、私と筧先輩しかいない。
緊張の糸が大きく振れる。
筧先輩の存在を知ったのは三年前の春。中学二年の時、図書委員で一緒になったのがきっかけであり、私はそれから筧先輩を目で追うようになっていた。同じ高校だとわかった時は、運命を感じた。
「一ノ瀬陽(いちのせひかりた)ちゃんだったっけ。ごめん、気持ちは嬉しいんだけど、君のことは後輩としてしか見られないかな……」
先輩が、気まずそうに目を伏せた。
フラれるんだろうなと、心のどこかでそう思っていた。それでも生まれて初めて芽生えたこの気持ちを伝えずにはいられなかった。
「そう……ですか」
「ごめんな……」
先輩は「じゃあ」とだけ言って走り去ってしまう。
止めるなんてできはしない。
私は独り、頬を濡らす。
悲しいのか、悔しいのか、自分でもよくわからない。でも流れるモノに偽りはなく、ただ事実だけを語っていた。
止めどなく流れるそれを、私は袖で拭い続けた。
どれだけの時間をそうしていただろうか、空はあかね色に染まっていた。こうしていても私の心は晴れない。底なし沼に沈んだみたいで、この気持ちから這い出ることが上手くできないでいた。もがけばもがくほどに沈んでいく。
新入生が入って一ヶ月。こんな時期に告白しようだなんて、私は陽気にでも当てられたのだろうか。頭のどこかで浮かれていた部分もあると思う。
そんな自分がまた惨めで、悲しくて、地面にまた新しい雫が落ちて弾けた。
「それでいいのか!」
その時、背後から男性の声が飛んできた。聞き覚えがある、太くて凛々しい声だった。小学校、中学校、高校と、偶然が偶然を呼んでずっと同じクラスの男子。
「それで納得できるのかと聞いている!」
強気であり、叱咤するような口調。この状況下で、なぜ私がこんな風に言われなくてはいけないのか。少しくら優しくしてくれてもいいんじゃないか。少しくらい甘えてもいいんじゃないか。そんな考えが浮かんだ。そしてそれは頭の中で激しくのたうち回っていた。
「いいはず、ないじゃない!」
私は振り返り、大声でそう言った。
同じクラスの架(かける)くんが仁王立ちしていた。校舎の隙間から差し込む夕日が彼の顔に当たり、その威厳を増長させていた。
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