第1章

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 日本でも屈指の富豪。その次男である、竜胆寺架(りんどうじかける)くんだ。  一応はお互いのことを知っている。しかし、直接面と向かって話をしたことなど数回しかない。しかも必要なときだけ。それなのに、なぜ今このタイミングで私に話しかけてきたのだろう。親しくもないのに、あんな口調で接されなければならないのだろう。 「その意気やよし! 爺! 千鶴(ちづる)! 屋敷に連れて行くぞ!」  私は言葉の意味を飲み込めなかった。 「ほいっ」  その声と共に背後からなにかを被せられ、私の視界は閉ざされた。目の前は黒一色。 「ひゃっ」 「少し揺れるが気にするな」  そして担がれた。うつ伏せの状態でお腹を担がれ、頭も足も宙ぶらりんだ。 「なに! なんなの!」 「案ずるな、お前をフったあいつを見返すのだ。そのために、竜胆寺家につれていく」  左右交互に足を振り上げては下ろす私。なんとか脱出しようと試みるも、私を担ぎ上げたであろう人は全く動じなかった。 「あまり暴れるとショーツが見えるぞ」  私は慌ててスカートを抑える。しかし体勢的に厳しく、かろうじて指先がかかる程度だ。 「恥ずかしい……」  こんな格好、人には見せられない。 「すぐに車だ。我慢しろ」 「本気で連れていくつもりなの?」 「男に二言はない」  男らしかったが、そんな男らしさはいらない。 「もー! おろしてよー!」  私の叫びは、むなしく空気に溶けていった。  竜胆寺家は非常に大きい。門からお屋敷までは車でも時間かかるし、敷地内にはお屋敷以外にもたくさん家があったし、なんかもういろいろすごい。  ちなみに、私の上半身を覆っていたものは、門をくぐったときに取ってもらった。  ここに来るまで、メイドの橘千鶴(たちばなちづる)さんに話を聞いた。  千鶴さんは架くんのお就きらしく、私に目隠しをした張本人だ。声も小さめだが、身体も小さめ。腕や脚も細く、一部の人には大人気な体型をしている。 「どうぞ」  タキシードのおじいさんが、車のドアを開けてくれた。この人はこみやせいしろう(こみやせいしろうさ)さんと言うらしく、これから運転手をしてくれるのだと千鶴さんは言っていた。 「さあ行くぞ! 一之瀬陽!」  目の前に現れた架くんは私の名前を呼び、強引に手を取った。  さり気なく私と架くんの鞄を持った千鶴さん。運んでくれるということか。
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