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架くんは力強い足取りで階段を上っていく。ドアの前に広がる扇状の階段に大きなドア。いかにもお金持ちの家というのが印象だった。
浅く短い階段を上っていくと、進行を妨げないようにとドアマンがドアを開けてくれる。いろんな物が輝いて、そこは光が満ちあふれていた。シャンデリアや、高価そうな壷や絵画。床に敷かれている、よくわからない模様の絨毯もきっと高いのだろう。
「心配するな、客室に案内するだけだ」
普段とは違う環境に、私は少なからず萎縮していた。この状況で「心配してるわけじゃないんですけど」とは言えなかった。
「そういえば車内にいなかったけどどこ行ってたの?」
「眠かったから寝ていた。それだけだ」
こんな仕打ちをしておいていい気なものだ。
手を繋いでお屋敷の中を進む。正確には手を引かれてというのかもしれない。
いくつもの重そうなドアを横目に、架くんは一つの部屋に入る。もちろん私も一緒に。いつの間にか小宮さんと千鶴さんはいなかった。
「よし、そこに座れ」
「う、うん」
促されるままに赤いソファーに腰を下ろす。お尻がどんどんと沈んでいくけれど、程よい硬さのためふわふわと浮いているような感覚だった。
千鶴さんは慣れた手つきでティーセットを用意していく。余計な話をしなければ、この人は本当に優秀なのだろう。みるみる内に仕事を終え、テーブルから二歩下がった。
「それでは陽、単刀直入に言おう。お前はしばらくの間ここに住んでもらう」
「うんわかった……って住む? 住むってこのお屋敷に?」
「そうだ、お前にはここで女を磨いてもらう。ちなみに言っておくが、竜胆寺家、一之瀬家双方の両親に許可はとってある」
なぜこうなったのかはわからない。しかし両親承諾のもと、このお屋敷で暮らすなんてどうかしてる。頭の中を整理する必要がないくらい単純で簡単なこと。架くんの思考を理解はしたけれど、納得なんてできるわけがない。
「男子の家に女の子を放り込んで、手放しで了解する親なんているわけないでしょう?」
「竜胆寺家とは信頼されている、いわばブランドなのだ。ここまで大きな家で女子を監禁などしたら、それこそ大きな騒ぎだ。今や世界と戦う竜胆寺が、そのような不祥事を起こすわけがない。その上で両親の承諾を得たのだ」
「そ、そういう意味ではなくて、えっと……」
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