第一章 魔王と勇者

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化粧を落とし、新たなる化粧を施した魔王は絶世の美女と化していた。 口をパクパクさせながら勇者は信じられないモノをみたと言った様子で、魔王をみていた。 魔法使いにはある程度、想像していたらしく、軽く目を見張っただけだった。 「どう? スッゴい変わりようでしょう」 女拳闘士は満足げに魔王をお披露目する。 「魔王、回ってみて」 「こうか?」 くるりと魔王が回ると、よい香りが漂う。 「おや、香水ですか」 「さすがは魔法使い!」 女拳闘士は満足感とも達成感ともMAXだった。 「なんか面映ゆいのぅ」 魔王が言えば、女拳闘士から鋭い言葉がとんだ。 「魔王! 言葉使い! もう少しくだけなさいって言ったでしょう!」 「しかし、急には無理じゃぞ」 仕方がないわね、と女拳闘士は魔法使いの耳元で何かを言った。 魔法使いは了承し短い呪文を唱えると、一冊の本が現れ、それを魔王に差し出した。 魔王は素直に受けとるとタイトルをそのまま読み上げた。 「美人になるための美しい言葉使い?」 「魔王には必要ねぇ」 ここで我にかえった勇者が叫ぶと、女拳闘士の恐ろしい声がとんだ。 「お黙り勇者、魔王を女だとわからなかったくせに、偉そうなこと言ってんじゃないわよ」 「うっ」 「魔王はね、言葉使いさえなおせば完璧なのよ!」 「女拳闘士どの……ありがたいのじゃが、すぐには美しい言葉を言えそうもないのだが」 申し訳なさそうに口を開く魔王に、女拳闘士は感きわまって叫んだ。 「そんなことゆっくりでいいのよ、魔王ちゃん」 いつの間にか魔王から、魔王ちゃんになっている。 「私たち友達でしょう」 「あぁ」 「ちょっと待った! お前らいつの間に友達になったわけ」 勇者が叫べば、魔王の覇気のない声が聞こえてくる。 「先ほどじゃが」 「さっき! 魔王! 俺たちの方が長い付き合いだよな」 「それはそうだが、友達は大切にせねば」 「言っておくが、俺は友達は嫌だからな」 「わたしのことが嫌いなのか?」 「逆だ阿呆!」 「逆?」 「俺は魔王のことが、す」 「ハイハイ。そこまで今の魔王ちゃんには刺激が強すぎるから、折りをみてコクってよ」 女拳闘士のストップが入り勇者の告白は、無惨に消える。 「とりあえず飲もう!」 言って、またまた宴は続いた。
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