第一章 魔王と勇者

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「いま戻ったぞ」 言いながら、両手いっぱいに酒瓶を抱えた魔王の姿に、勇者はぎょっとした。 魔王の頭には蜘蛛の巣がひっかかっており、豪華な衣服も汚れていたからだ。 「……ひとつ聞くが、もしや迷ったのか?」 自分の城でと暗に言っている。 魔王はそれには気付かず、 「いや。古い落とし穴に落ちてのぅ。危うく死にかけたわ」 言いながら、酒瓶を床に並べる姿は、もはやラスボスの威厳もない。 「……俺が行ったほうが良かったかもな」 「いやいや勇者よ。そなたは客人。客人に動いてもらうわけにはいかんよ」 勇者は床から身を起こすと、酒瓶が並べられたところまで、膝歩きをする。 魔王は酒瓶が割れてないことにホッとしつつ、何か忘れていることに気付き、叫んだ。 「勇者よ、すまぬ!」 「なにが?」 「つまみを、つまみを持ってくるの忘れた!」 「気にするな。俺は飲むとき食わないたちだ」 「そうなのか……?」 安堵の息を吐いて、魔王は酒瓶を並べ終えて、また叫んだ。 「すまぬ、勇者!」 「今度はなんだ?」 「杯を忘れた!」 「必要ねぇだろ」
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