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意に沿わぬ労力を使わされた高広だが、 権力のある佐々部組の三男坊に生まれて、社会の仕組みも現実も教えられず、目の前にぶら下がった己の不運を単純に嘆く佐々部良平の姿には、 多少、憐憫の情を覚えている。 無知は罪だ。 だから龍一も良平にひとときの慰めにアルコールを与えながら、 「お前が絶望を知るのは、これからだ」 同情していたのかと思っていたのだが。 運転する龍一を盗み見やれば、端正な顔に、これまた人間離れした美しい微笑みを浮かべている。 「……」 龍一は、その頭で考えていることと、顔に浮かべる表情が違う。 誰もが魅了される魅惑の微笑みを浮かべながら、特技は『拷問だ』とほざける男だ。 果たして今も、その頭の中で何を考えているのやら……。 高広は軽く身震いしてから、タバコの火をもみ消した。
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