第三話 兄弟 

2/6
695人が本棚に入れています
本棚に追加
/248ページ
「連絡をありがとうございます。翔太をどこかで見かけたのですか?」  生真面目な性格なのだろう。正午きっかり玄関へ現れた翔太くんのお兄ちゃんのはじめ君は、俺の顔を見て開口一番にそう言った。 「こんにちは。来てくれてありがとう。ここじゃアレなんで、どうぞ上がって下さい」 「…………」  俺の言葉に、はじめ君が小さくため息を吐きながら、肩から下げていた重そうなバッグをおろした。  目の下にクマが出来ている。もしかして昨日から寝ていないのかもしれない。普通に考えて眠れる状況ではないだろう。それでもはじめ君は、イライラを押し殺した口調で静かに言った。 「申し訳ないのですが、のんびりしている暇はないんです。だから、もし何かを知っているのならここで教えて貰えないですか?」  俺は声のトーンを落として静かに言った。 「ここに居ますよ? 翔太くん」 「えっ!?」 「だから、上がって。ね?」  はじめ君は動揺した表情で靴を脱いだ。廊下を歩く俺の後ろを、持ってきたカバンを大事に抱えるようにして黙ってついてくる。 「入るよ?」  声を掛けて奥の和室の襖を開けると、起きたばかりの翔太くんがミーコと一緒に振り返った。  翔太くんが息を呑むのが分かった。大きく見開いた目、怯えた表情。 「しょ、翔太!」 「はじめ君、ちょっと待って?」  翔太くんに近づこうとしたはじめ君の肩を押さえ、凍りついた表情のまま、身動き出来ないでいる翔太くんへ言った。 「翔太くん、安心して。お兄さんはお父さんを刺してないよ?」 「……へ?」 「……え?」 目を丸くして、兄弟は同時に声を出した。
/248ページ

最初のコメントを投稿しよう!