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「連絡をありがとうございます。翔太をどこかで見かけたのですか?」
生真面目な性格なのだろう。正午きっかり玄関へ現れた翔太くんのお兄ちゃんのはじめ君は、俺の顔を見て開口一番にそう言った。
「こんにちは。来てくれてありがとう。ここじゃアレなんで、どうぞ上がって下さい」
「…………」
俺の言葉に、はじめ君が小さくため息を吐きながら、肩から下げていた重そうなバッグをおろした。
目の下にクマが出来ている。もしかして昨日から寝ていないのかもしれない。普通に考えて眠れる状況ではないだろう。それでもはじめ君は、イライラを押し殺した口調で静かに言った。
「申し訳ないのですが、のんびりしている暇はないんです。だから、もし何かを知っているのならここで教えて貰えないですか?」
俺は声のトーンを落として静かに言った。
「ここに居ますよ? 翔太くん」
「えっ!?」
「だから、上がって。ね?」
はじめ君は動揺した表情で靴を脱いだ。廊下を歩く俺の後ろを、持ってきたカバンを大事に抱えるようにして黙ってついてくる。
「入るよ?」
声を掛けて奥の和室の襖を開けると、起きたばかりの翔太くんがミーコと一緒に振り返った。
翔太くんが息を呑むのが分かった。大きく見開いた目、怯えた表情。
「しょ、翔太!」
「はじめ君、ちょっと待って?」
翔太くんに近づこうとしたはじめ君の肩を押さえ、凍りついた表情のまま、身動き出来ないでいる翔太くんへ言った。
「翔太くん、安心して。お兄さんはお父さんを刺してないよ?」
「……へ?」
「……え?」
目を丸くして、兄弟は同時に声を出した。
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