第四話 怪物

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 真夜中のかくれんぼは思ったより難しい。公園は街灯のせいで人目につくし、街はすぐに補導される。結局、人通りの少ない路地裏を静かに歩いて時間を潰すしかない。    外見がなぁ…もう少し背が高ければパッと見、子供だとバレないのに。  もう、あいつは眠ったろうか? 兄ちゃんから連絡もない。どうしたんだろう? まだ家に着いてないのかな? ズボンのポケットを探り、携帯が無いことに初めて気がついた。 「チッ」  しまった。きっと、ベッドの上だ。兄ちゃんにメールした後、携帯をどこかに置いたのか、それともポケットへ入れたのか、全然記憶にない。慌てて逃げたつもりはないけど……やっぱり慌ててたんだ。どうしよう。もう、きっと一時間くらいは経ってるはずだし……。  仕方がなく僕は、家へ引き返した。  一軒だけ、明かりが点いている家。町内のほとんどの家が寝静まった真夜中。  遠目に見て……自分の家はやっぱり異常だと思った。僕自身も。  あ、兄ちゃんの車がある! よかった……帰って来てたんだ。  ガレージに見慣れた兄ちゃんの車を見つけて心底ホッとした。一気に気持ちがラクになる。  一階のリビングは出て行った時と変わらず明かりが点いてた。  あいつまだ起きてんのかな? 酔っ払ってソファで寝てるといいんだけど……。何時なのか分かんないけど……多分、三時は過ぎてる。いつものパターンならとっくに眠っているハズ。  念の為、僕は足音を立てないように南側の庭へ回り込んだ。そこならリビングが覗ける。いつもここからあいつが眠ったか確認して二階へ戻るのだ。  それにしても……兄ちゃんと連絡が取れないのは本当に厄介だ。今度からは絶対に携帯を忘れないようにしよう。  頭の中で一人反省会をしながら、一箇所だけ鍵の壊れてるサッシを音を立てないように慎重に開けた。  このサッシの鍵がバカになっている事は僕しか知らない。十センチも開ければ充分だ。人差し指でカーテンを揺らさないように隙間を作り、片目を閉じてリビングの中を覗いた。  ……え?  立ち尽くす兄ちゃんの手には、血まみれの包丁が握られていた。
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