第一章 プロローグ

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 ギュッと目を閉じ、思い切り伸びをすると、体中の骨が気持ちよさげにポキポキと鳴った。目を開くと、窓から見える空。濃紺の空は今、うっすらと明るくなりつつあった。  かすかにひぐらしが鳴き始める。  夏の夕暮れを思い出させる儚げな音。でも実は、涼しい早朝も鳴くんだよね。完全に日が昇るとピタリと止んじゃうんだけど。  ひぐらしの音につられる様に上半身をムクリと起こし、振り返って壁の時計を見てビックリした。 「うわっ……もう五時?」  ひんやりした朝の清々しい空気を想像して、俺は立ち上がり音を立てないように階段を降りた。  玄関は重い昔ながらの格子戸で、開けるとガラガラと大きな音がする。  ばーちゃんを起こすと申し訳ない。  俺は駄菓子屋の店の方のガラス戸を静かに開けて外へ出た。 「すぅ~はぁ……」  胸いっぱいに朝の空気を吸って両手を空に突き出し伸びをすると、頭の中で音楽を流しながらうろ覚えのラジオ体操などしてみる。  気分もいいし、こんな気持ちのいい朝に眠ってしまうのは勿体無い気がして裏山に向かって歩き出した。  家の裏の道を数百メートル行くと小さな山がある。  古い神社と祠と石畳があるだけで、あとは杉の木と生い茂ってすっかり荒れ果てた竹やぶと、ハイキングコースとはとても言い難い遊歩道や、休憩の為の東屋が、ポツンポツンと散在するのみ。  子供の頃から何度も遊んだ小さな山。  ハイキングしたり、昆虫を捕まえたり秘密基地を作ったり…。  石階段や手すりなんかもある正式ルートじゃなくて、散歩の時はいつも反対側のけもの道から登る。  家からだとそっちの道の方が近道。  もちろん子供の頃からの通り道だ。
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