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頭から角が出ている様な、勇ましい歩き方の咲ちゃんの後ろを歩いていると、人だかりができている場所に着いた。咲ちゃんが顔を隠すのも忘れて、驚いた表情で振り向き、俺に手招きをする。
「あれって、……滝沢さんちだよね?」
「う、うん……」
もうその家の周りには、黄色と黒のテープが張り巡らされていた。ブルーシートが玄関から救急車までの間を目隠ししていて、数人の警官らしき人影がその内側で、玄関を行き来しているのが分かった。
家の周りを囲むように停車しているのは、パトカー三台と黒のセダン一台。
担架が家の中から出てきたのが覆っているブルーシートの隙間からチラッと見えた。
も、もしかして……アレ、死体なの? そんなの見ちゃったら、俺、気絶しちゃうかも。ていうか……誰が運ばれているの?
近所で有名なスピーカーおばさんがコソコソと、なぜか自慢げに言った。
「ちょっと、ちょっと! 行方不明らしいわよ。翔太くん!」
「え? そうなの?」
「あら、まぁ……」
数人のおばちゃん達の輪が出来て、途端に始まる噂話。
「お父さん刺して、逃げたのかね~」
「まー……。あんないい子が?」
「いい子って、だから怖いのよね~」
「いっつも、夜中にフラフラしてるって聞いたわよ?」
「夜中って、何時よ? 門限あるでしょ?」
「ほら、あそこ、お母さんが……」
「ああ、可哀想よね? 寂しかったのかしら?」
ヒソヒソ ヒソヒソ 聴こえてくる心無い言葉。
同情している口ぶりだけど、おばちゃん連中の顔は何故かイキイキしている。他人の不幸がよっぽど楽しいのだろうか?
「いこか」
「あ、うん」
俺は、なんとも言えない気分でその人だかりから離れた。
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