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「じゃ、いってくるで」
「はーい」
十時頃、ばーちゃんが買い物をしたいからと駄菓子屋の店番を頼まれた。
午前中にやってくるお客なんて滅多にいないし、いつもばーちゃんが店番する時の畳の部屋でゴロンと横になり、扇風機を回し小説を読んでいた。
もう二週間もすれば八月だ。まだ梅雨は明けてないらしいけど、雨も降らず最近どんどん気温が上昇している。
ミーコを見ると、店の土間の日陰でゴロンと横になっていた。あそこが風通しいいんだな。
「よっ! さぼってんな」
「よぉ!」
「こら! あんたは、こんにちは。でしょ!」
元気な二つの声に本から顔を上げると、今朝会ったばかりの……今度はメイクをバッチリしている咲ちゃんと、小さな男の子。
息子くん?
黄色のキャラクターTシャツを着た坊主頭の男の子は、咲ちゃんの横で俺を気にしながら狭い店内をソワソワと見回している。
「よぉ! お? こんにちは。初めまして! 俺、雅之。まーくんね? 君のお名前は?」
身体を起こして立ち上がり、サンダルを履いて土間へ降りる。咲ちゃんの横に立っている男の子の前に屈んで挨拶をした。
勝気そうな瞳に笑いかけると、咲ちゃんの息子くんはニカッと笑い、手を思い切りパーに広げた。
「だいち! さんさい!」
「こらこら、手ぇ、五歳になってんぞ」
「ふはは。三歳は難しいよね~? そっか~。だいちゃんか~」
だいちゃんは、もう俺に見向きもしないで駄菓子と一緒に並んでいるビー玉や、スーパーボール、水鉄砲なんかに目を輝かせた。
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