第九話 友達

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 吉田さんと水元さんへ声を掛けて、僕と五十嵐は先にカラオケ店を出た。まだ、五時ちょっと過ぎなのに、外はもう薄暗かった。 「電車、一人で大丈夫か?」 「あはは。大丈夫だよ? ありがと!」 「おう! じゃな!」  反対方向の電車に乗る五十嵐とは、ここでお別れ。ラッキーな事に車両に乗り込むと、空席に座れた。電車の中、まーくんへメールすると、直ぐに返事が来た。   ミコシバさんとまーくんのことを考えると胸が苦しくなる。でも、まーくんの待っている家には帰りたかった。  あのあったかい笑顔が僕は大好きなんだ。 「おかえりー! 楽しかったかい?」  駅へ着くと、もうまーくんが待っていてくれた。 「うん。ありがとう!」 「思ったより早かったね?」 「え? そう?」 「うん。今時の高校生みんな遅いじゃん?」 「あはは。……そうらしいねぇ」  車に乗り込みながら他愛もない会話をする。  いつものまーくん。いつもの僕。  でも、まーくんはすごく嬉しそう。僕が、友達と遊べたからだ。ずっと……まーくんは口に出さないだけで、心配してくれてたんだ。  それが申し訳なくて、でも、嬉しかった。    僕はきっと、知らないだけで、気付かないだけで、いろんな人に見守られているんだと感じた。  五分も走ると、家に到着だ。 「さーて、今日の晩御飯は……」  エンジンを切ろうとしたまーくんにギュッと抱きついた。 「お? どしたの?」 「カラオケでうたた寝したら夢見ちゃって……」 「え?」 「友達が起こしてくれたから、大丈夫だった」 「そっかぁ。良かったね」  ホッとしたように、まーくんが僕の頭を優しく撫でてくれた。その温もりに、やっぱりまーくんじゃないとダメだって思う。しがみついてる手を解きたくない。  そう思っていると外から嫌な音がした。  キーキーキー。 「おわっ!」  まーくんの素っ頓狂な声にビックリして顔を上げると……車体に乗ったミーコがフロントガラスで、爪を研いでいた。
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