699人が本棚に入れています
本棚に追加
吉田さんと水元さんへ声を掛けて、僕と五十嵐は先にカラオケ店を出た。まだ、五時ちょっと過ぎなのに、外はもう薄暗かった。
「電車、一人で大丈夫か?」
「あはは。大丈夫だよ? ありがと!」
「おう! じゃな!」
反対方向の電車に乗る五十嵐とは、ここでお別れ。ラッキーな事に車両に乗り込むと、空席に座れた。電車の中、まーくんへメールすると、直ぐに返事が来た。
ミコシバさんとまーくんのことを考えると胸が苦しくなる。でも、まーくんの待っている家には帰りたかった。
あのあったかい笑顔が僕は大好きなんだ。
「おかえりー! 楽しかったかい?」
駅へ着くと、もうまーくんが待っていてくれた。
「うん。ありがとう!」
「思ったより早かったね?」
「え? そう?」
「うん。今時の高校生みんな遅いじゃん?」
「あはは。……そうらしいねぇ」
車に乗り込みながら他愛もない会話をする。
いつものまーくん。いつもの僕。
でも、まーくんはすごく嬉しそう。僕が、友達と遊べたからだ。ずっと……まーくんは口に出さないだけで、心配してくれてたんだ。
それが申し訳なくて、でも、嬉しかった。
僕はきっと、知らないだけで、気付かないだけで、いろんな人に見守られているんだと感じた。
五分も走ると、家に到着だ。
「さーて、今日の晩御飯は……」
エンジンを切ろうとしたまーくんにギュッと抱きついた。
「お? どしたの?」
「カラオケでうたた寝したら夢見ちゃって……」
「え?」
「友達が起こしてくれたから、大丈夫だった」
「そっかぁ。良かったね」
ホッとしたように、まーくんが僕の頭を優しく撫でてくれた。その温もりに、やっぱりまーくんじゃないとダメだって思う。しがみついてる手を解きたくない。
そう思っていると外から嫌な音がした。
キーキーキー。
「おわっ!」
まーくんの素っ頓狂な声にビックリして顔を上げると……車体に乗ったミーコがフロントガラスで、爪を研いでいた。
最初のコメントを投稿しよう!