暗がりの夢

3/47
前へ
/81ページ
次へ
学院大学前となると、大学関係者以外誰も利用しないバス停なのではないか、と思われてしまうかもしれないが、しかしそんなこともない。大学の裏手には、そこそこの規模の墓地が広がっているため、幾人かは、そのためにこのバス停を利用することもあるようだ。 私の通う大学は、学生間では『継ぎ接ぎ大学』と呼ばれている。その所以は、古い建物を何度も修理、増築して利用しているためである。 それ故、内部は新旧入り交じっていて、踏み抜けば破損してしまいそうな床の区域があれば、打ちっぱなしのコンクリートで囲まれた部屋もあったりと、カオスな様を露呈している。 私がこの大学を志望したのは、純粋に学力と学部を見て考えた結果に過ぎないのだが、しかしこの雰囲気、さながら時代と言うものを煮詰め、収縮させたかのような校舎の有り様は、中々気に入っていた。 ただ問題として、夏場は非常に暑いと言うことが上げられる。特に、今のような梅雨の季節には、湿気も相まって不快極まりない気温になる。さながら地獄の釜の中のようだ、とでも言えばその凄惨たる有り様が少しは伝わるだろうか。大学生どもが一同に介する、というだけで、熱量は上がり、年に一人は熱中症でぶっ倒れる輩が現れる。ついでに言えば去年、その役目を背負っていたのは私だった。 学院側も空調設備の整えを検討しているらしいが、少なくともこの様子を見る限り、それが実施されるのは来年以降となるだろう。つまるところ、今年はこの暑さに無装備で耐えなければいけないと言うことだ。 まあいい。忍耐力を鍛えると言う観点からすれば、さほど耐えられないことでもない。 さて。そんな大学の学生たる私だが、基本的には真面目な学生ではない。どちらかと言えば、「遊ぶために大学に入った」と言うような、ありきたりな学生である。 故に、本日のように必修授業の無い日は、少しだけ大学に顔を出し、午後にはすぐに帰ってしまう、ということがままある。そしてそんな日には、決まって顔を遭わせる人が居た。 バス停。 ***学院大学前、バス停。 そこには簡易ながらも屋根のある日除けがあって、なおかつその下にはベンチが置かれている。私もバスが来るまでに時間があるときは、そこで読書なり昼寝なり空想なり懸想なりしているものだが、当然、バスを利用するのは私だけではない。大学前のバス停なのだから、学院生たちが利用してしかるべきである。
/81ページ

最初のコメントを投稿しよう!

56人が本棚に入れています
本棚に追加