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【22】
夏の終わり。
あれだけ煩く鳴いていた蝉たちも、死に絶えたように鳴りを潜めて、うだるようだった暑さも徐々に失せていく。
同じように、一夏の夢は儚く消える。
私の見ていたあの悪夢は、既に現実にあったのかすら解らないほど、曖昧模糊したものとなっていた。あれを記録していた夢日記が紛失した今、如何に悪夢と言えど、夢は夢らしく雲散霧消する他にない。
しかし、今でも……夏至を超え、段々と短くなる日を見るたび――心の何処かに、暗く、冷たい奔流が吹き抜けるような気がしてならないのだ。暗い――暗い、暗がりを見るたび……どこか、心の奥底に、切なさにも似た違和感を、覚えることが……稀にあるのだ。
けれど、それはきっと、夢の残骸でしかないのだろう。
あったかもしれない、有るはずのない夢の――残骸。
夢の跡。
私は、きっと、それを心の奥に抱え込んで――これから、現実を歩んでいくのだろう。それは何処か恐ろしいようで……しかし、その実、ありきたりで、普遍的なことに違いないのだ。
――ふと、私の頭の中で――××、××××――と言う、火の粉の爆ぜるような音がした――ように思えた。
〆
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