おにいちゃん

2/6
前へ
/6ページ
次へ
昨日、お兄ちゃんが死んだ。 元々、病弱だったお兄ちゃんは常に入退院を繰り返して とうとう16年の生涯を閉じたのだ。 両親は病弱なお兄ちゃんを何とか救いたかった。 その心の隙間に付け入られ、6年前、新興宗教に勧誘されてしまったのだ。 宗教は人の心を狂わせる。 両親はお兄ちゃんが死んだというのに、涙一つ流さなかった。 私は、一晩中泣き明かしたというのに。 「かおり、そんなに悲しまなくていいのよ。 お兄ちゃんは必ず復活するのよ。 ジザス様がお救いくださるから、大丈夫なの。」 母はそう言い、微笑む。 私は母に猛然と食ってかかった。 「神様なんていないの!まだわからないの? お兄ちゃんが死んだってのに、目を覚ましてよ! お母さんたちは狂ってる!」 そう言うと、母は鬼のような形相で、私を殴りつけた。 「なんて罰当たりなこと言うの! ジザス様は慈悲深いのよ!お兄ちゃんを見捨てるわけないじゃない! 狂っているのはあなたよ!なんでそんなこともわからないの!」 それを見ていた父が私を庇った。 「お前、何も叩かなくてもいいじゃないか。 でも、かおりも悪いぞ?縁起でもない。おにいちゃんはきっと 復活するんだ。お母さんにちゃんと謝りなさい。」 私は少しでも、父に期待したことに腹が立ち、失望した。 狂人に何を言っても無駄だ。 私は自分の部屋に走って閉じこもり、鍵をかけた。 どうしてこんなことになったんだろう。 あの宗教にハマるまでは、うちは普通の家庭だった。 お兄ちゃんは入退院を繰り返していたけど、家族旅行したこともあったし 体の弱いお兄ちゃんを支え、皆で協力して、愛情に溢れる家族だったのだ。 宗教が私の家庭を壊した。 両親が宗教にハマってからは、何をおいても、その宗教の行事が優先で、食事前には、今までしなかった、お祈りのようなものも強制され、何かと私も宗教のイベント会場に連れて行かれた。 はっきり言ってウンザリしていた。 お葬式だって、親戚縁者を誰一人呼ばず、教団施設内で 誰ともわからない人々が葬儀に参列し、おかしな歌を歌い始めたのだ。 ただし、両親はそれをお葬式とは呼ばずに、復活祭と呼んでいた。 何かの宗教のアレンジじゃないの。バカみたい。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加