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葬儀のあくる朝、私は2階の自分の部屋を出て、下に降りて驚いたのだ。
お兄ちゃんの死体が、まだお布団に寝かされているのだ。
「ちょっと、何でお兄ちゃんを火葬場に連れていかないの?
ずっとこのままにしておくつもり?」
私は両親にたずねた。
「何言ってるの。焼いたりしたら、お兄ちゃん、戻ってこれなくなっちゃうじゃない。
復活するまで、待つしかないのよ?お兄ちゃんは死んだわけじゃないの。
生まれ変わるのよ。」
「かおり、心配しなくても大丈夫だぞ。もうすぐ、
お兄ちゃん帰ってくるからな。」
両親の目は普通じゃない。
でも、この人たちはこれが正しいことだと信じてやまない。
私はもう疲れ果ててしまった。
両親と言い争う元気もない。
でも、本当に、お兄ちゃんはまるで寝ているだけのような
安らかな顔をしていた。
両親の気が済むまで、こうしてお兄ちゃんを側におくのもいいのかも。
そして、私自身も、お兄ちゃんの体がこの世から消えてしまうことが悲しかったのだ。
しかし、1週間も経てば、ちょっと様子は変わってきた。
家中にお兄ちゃんの腐臭が漂っている。
お兄ちゃんの顔色も、土気色になってきて、多少崩れてきている。
これはさすがにまずいのでは、そう思い、再度両親に
きちんと死体の処理をするように言ってみた。
でも、やはり応えはわかりきっていた。
烈火のごとく怒り、もう少しで復活するのだ、と言い張るのだ。
2週間もすると、お兄ちゃんがだいぶ変形してきた。
人間の形をかろうじてとどめている。
臭いはもう強烈だ。
私はなるべく、自分の部屋にお兄ちゃんの臭気が入ってこないように
密閉した。そして、食事も自分で買ってきて、自分の部屋で食べた。
もうこれは限界だ。
友人の家にでも居候させてもらうか。
私がそんなことを考えていた矢先だった。
ある朝、学校へ行くため、下へ降りていくと、ダイニングの椅子に
お兄ちゃんが座っていたのだ。
信じられない。本当に蘇った。
肉が腐って垂れ下がり、ほぼ顔はお兄ちゃんだとはわからない。
私は吐き気を催した。
「かおり、心配掛けてごめんな。俺、帰ってこれたよ。」
懐かしいお兄ちゃんの声だ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
私は嗚咽した。
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