おにいちゃん

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お兄ちゃんが階段をかけ降りる音が響く。 「来ないで!」 私は声の限り叫んだ。 私は、飛び降りた時に、足をくじいた痛みを我慢して、 震える足を一心不乱に動かして、夜のアスファルトを裸足でひた走った。 お兄ちゃんが玄関を開ける音がした。私は走りながら振り返った。 そこには、血まみれのお兄ちゃんが立っていた。 お兄ちゃんは私を追うでもなく、たた呆然とそこに立ち尽くしていた。 お隣の家までは、100メートルほどなのに、やけに長く感じた。 夜中にお隣のドアを叩いて助けを求めた。 隣のおばさんに、何があったのかと問われた。 「お兄ちゃんが!お兄ちゃんが!」 私はしゃくりあげて、ただそう言うだけで、この状況をどう説明していいのかわからなかった。隣のおばさんも、お兄ちゃんが死んだことも、ましてや蘇ってゾンビになったことすら知らないのだ。 「どうしたの?お兄ちゃんが、また具合悪いの?救急車を呼びましょうか?」 おばさんが、私に問いかける。 「お兄ちゃんが、死んで・・・お父さんとお母さんを、襲ったの!」 おばさんは、私の言うことに明らかに困惑をしている。 「よ、よくわからないけど。何かあったのね?」 そう言うと異常を察知して、おばさんが警察を呼んでくれた。 私は警察官に付き添われて、自分の家に帰って来た。 だが、そこにお兄ちゃんの姿はなかった。 両親の遺体の状態は酷かった。 まるで動物に噛み殺されたような死に様だった。 喉元は裂け、腸も裂かれ、あたりは血の海だった。 私は腐った唇からのぞいた、お兄ちゃんの黄ばんだ 鋭い歯を思い出し、映像を追い出そうとぎゅっと目をつぶった。 最初、私が警察に疑われたが、物的証拠は何もなく、明らかに異常な両親の死に様に警察の捜査も難航した。両親の司法解剖の結果、両親の体のいたるところからお兄ちゃんのDNAが発見され、お兄ちゃんは警察に指名手配されてしまった。 もちろん両親は、お兄ちゃんの死亡届けを出していないのだから、お兄ちゃんは戸籍上生きているので、指名手配されてもなんら不思議ではない。 ただ、私だけが、お兄ちゃんが絶対に捕まらないことを知っている。 だって、お兄ちゃんはもう死んでるんだもの。 今もお兄ちゃんは行方不明だ。 お兄ちゃんの皮を被った何かが きっと今も、どこかを彷徨っているのだ。
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