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最初はひょんなことだった。
部活で先輩にいびられてむしゃくしゃしていた将太は、久々に万引きをすることにした。狙いはこのコンビニのお菓子だ。高校一年の将太にも、手持ちの金で十分に買える品物である。
値段なんてどうでもいい。
店を出る瞬間の、あのスリルがたまらないのだ。その後店を出て、全てから解放されたようなエクスタシーに包まれる。その快楽を求めて、商品をポケットに詰める。
今日も店員に気付かれず任務を遂行し、自動ドアを通過する最高の快楽を味わった。
しかし店を出た直後、ふと、視線を感じた。
振り向くと、七歳前後の少年がじっと見ていたのである。
「なんだよ、見てたのかよ」
目が合い思わず声が出てしまった将太は、少年の前にしゃがんだ。
周囲を確認したが、こちらを見ている者はいない。店側から見ても自分の影になるように盗んだお菓子を出し、半分に割って少年に手渡した。
「誰にも言うなよ」
少年は黙って菓子を受け取り、じっと将太を見ていた。
戦利品なんてどうでもいい。盗む、その瞬間にこそ意義があるのだ。
将太はもう半分を口にいれ、その場を後にした。
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