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翌日の土曜。授業はなく部活を終えた将太は、いつもと帰り道を変えてみた。気にしないようにしていても、やはり少年が気にかかってしまう。
昨日の駅ビルからも、コンビニからも離れた道を通る。
しかし、赤信号で止まっていたその時。すぐ脇のドーナツ屋で、昨日よりにっこりと、歯茎まで見せて笑っている少年を見たのである。もちろん、手には剥き出しのドーナツが握られている。
「なんなんだよ」
赤信号で止まっていたにもかかわらず、行くつもりのなかった方に走った。
無我夢中に走って止まったところは、釣り具屋の前である。そして、当然のようにそこには少年がいた。
歯茎の生え際が見えるほどに笑っている。
「笑ってないでなんか言ったらどうなんだよ」
ケケケケケ。
すると、少年は頬骨まで露出させて笑いだした。
「おい、どうかしてる」
将太がいくら走っても、脚を止めれば近くに少年は立っていて、笑いながら見ているのである。それも将太が見ているその時に、店舗からなにかを万引きをしている。
なぜ、誰も何も言わない。
いや、なぜ、誰も気付かないのだ。
そして、こいつ自体がなぜ、何も言わない。
万引きは悪かった。頼む、もうしないから、許してくれ。
将太はそう念じながら商店街に辿り着いた。
もう走れそうにない。
数メートルほど惰性で歩き、止まったところは八百屋の前であった。
探したくはなかったものの、顔を上げればやはり、少年らしき姿を見つけてしまったのである。段ボール詰めされて地べたに置いてあるトマトをしゃがんで見ている。
しかし、こちらを見ているのではなく、こちらに背を向けていた。
もしこれがあの少年でなければ、自分は逃げ切れたことになるのではないか。
もう走れない将太は、その場しのぎのデタラメな理由を作り上げ、ゆっくりとしゃがんでいる少年に近付いた。
それに応じるように、こちらに背を向けていた少年が、ゆっくりと振り返ったのである。
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