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いつの頃だったんだろう。
そうだ、想い出した。
僕、橋山真澄、私立桜田門高校2年生の夏だった。
宮下あかりさんって女の子が僕のクラスに転校してきたんだ。
外見はごく普通、成績も中の中、平均的で、周囲の女子とも
協調してうまくやっていたようで目立たない存在だった。
そして席変えで、隣の席に座っていた君が、お昼休み時間に
話しかけてきた。
「橋山クン、何か面白いもの持ってない?」
(困ったな、こんなときどんな回答すればいいのかな。)
「ああ、先週まで、面白くてハマっていた小説があって、これなんだけど。
宮下さんの趣味にあうかな?」
学生鞄から1冊の小説本を取り出して彼女の机の上に置いた。
表紙に鳳凰を黒塗りしたイラストが描かれていて、
タイトルは
「王様の超極楽鳥」だった。
1ヶ月前の日曜日にフラッと入った中古書店の100円均一コーナーで
埃をかぶっていたのを掘り出して買った。
著者名は、擦れたような傷で読み取れなかったが、
ストーリーは中世を舞台に、王様の勅令で少年が世界に1羽しかいない
伝説の「超極楽鳥」を探して冒険をする活劇ものだった。
「これでいいのなら読み終わった小説だから当分借りててもいいよ。
古くて傷みもあるけど。」
「ありがとう。借りるね。」そういって彼女は
小説本を自分の学生鞄にしまいこんだ。
一週間後の昼休み、彼女、宮下あかりさんはごく普通に
借りた小説本「王様の超極楽鳥」を僕に手渡し、
「ありがとう。面白かった。」といってごく普通に返却した。
「お礼がしたいんだけど、ちょっといい?」
教室のクラスメートの目が有る中では出せないお礼らしく、
教室を出て手を引っ張って、人気の無い、屋上に通じる階段の踊り場に
たどり着いた。
正直、僕は「甘い何か」もあるのではと胸をドキドキさせて期待していた。
セーラー服に身を包んだ女子が自分の手を引っ張って人気の無い所に
連れ出したのだから。
僕の瞳を見つめて彼女が話し始めた。
「あの・・・今まで黙っていたんだけど、」
「私、宮下あかりは、あなた、橋山真澄さんの・・・」
「ドッペルゲンガーなのです。」
ドッペルゲンガー???それって何だ?オカルト趣味か?
ポケットから取り出したスマートフォンで「ドッペルゲンガー」を検索する。
ドッペルゲンガーとは自分自身の複製で、もうひとりの自分である。
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