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加藤さんは僕の部屋に来たがったり、大人しそうな外見とは違いかなり積極的だった。
だが、僕は彼女との思い出の部屋に加藤さんには足を踏み入れて欲しくなかったので、ことごとく断っていたのだが。
僕は今日も、せっせと鉢に水をやる。
「早く綺麗に咲いておくれ。そして、僕を彼女に会わせて。」
来る日も来る日も、甲斐甲斐しく、その鉢の世話をした。種は芽吹き、どんどん茎を伸ばし、葉を増やして成長していった。そして、ついに小さな蕾をつけたのだ。
やった!もう少しで花が咲く。
「花を咲かせ思い人を蘇らせるには、一つ、条件があります。」
僕はあの絵描きの言葉を思い出していた。
そう条件が揃ったのだ。
そして、彼女の花が咲いた。僕は勝手にその花を彼女の化身として擬人化していたのだ。花はあまり綺麗ではなかった。開いた花びらはまるで葉っぱのようだった。これが、この花の特徴らしい。この花が本当に美しいのは、花がしおれて元気がなくなり、頭をたれてからなのだ。
数日後、花は徐々に下を向き頭を垂れて行った。すると、この花の本当の美しい面が露になって来たのだ。ウラガエシというこの花の由来。
僕はウラガエシが美しい裏の顔を現した日の夜に、夢を見た。
ウラガエシが美しく月光に光っている。
「ウラガエシがあなたの夢の中で月光に照らされた時、貴方は彼女をよみがえらせることができる。」
僕は、あの絵描きの言葉を思い出していた。だから僕は、絵描きに言われた通りにウラガエシの茎の部分を持って、鉢からウラガエシを引き抜こうとした。手ごたえがかなりあった。重い。僕は必死にウラガエシの茎を引っ張る。こんなに強く引っ張っているのに、ウラガエシの茎はまったく千切れない。
そして、ウラガエシは鉢からずるりと抜けた。
ずるりと鉢の土の中から何かが出てきた。根だ。巨大な根だと思っていたのだ。
するとその泥にまみれた根がこう言ったのだ。
「やっと会えた。会いたかったわ、祐二。」
忘れもしない、死んだ彼女の声。本当に蘇ったのだ。
ただ、彼女の姿は生前とはかけ離れていて、根と見紛うほどに骨に皮がまとわりついたずるりとした物体だった。
僕は夢の中で、あまりのおぞましさに絶叫したのだ。
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