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「伊佐薙さんの部屋から、変な臭いがするんです。」
伊佐薙の住むアパートの部屋の前で、伊佐薙の会社の後輩社員が上司である伊佐薙の同僚に伝えた。
伊佐薙が、会社を無断欠勤して5日が経っていた。それと同時に、同僚の加藤麻衣も会社を無断欠勤、行方不明になっていた。
会社の同僚と後輩は管理人立会いのもと、伊佐薙の部屋のドアの鍵を開けた。むっとすえたような甘ったるい腐臭が部屋から流れて、3人は思わず口と鼻を塞いだ。奥の部屋に行くと、布団が敷いてあり、伊佐薙が横たわっていた。
「伊佐薙さん、伊佐薙さん、どうしたんですか?」
臭いをこらえながら体を揺さぶっても一向に起きる気配が無い。
後輩は、伊佐薙の被っていた布団を捲り上げた。
「ひぃぃいぃぃっ!」
後輩は布団の中を見て驚いて叫び、後ろにぺたんとしりもちをつくと動けなくなってしまった。
「どうした?」
同僚が布団に近づくと、その光景を見て一瞬何かわからずに、目をこらして、ようやくそれが人の形だと認識した。伊佐薙のとなりにある物は、腐って干からびた人の形をしていた。
髪の長いミイラだ。しかも泥まみれである。
「こ、これ・・・・加藤さん?」
後輩がありえないことを口走った。
「そんなわけねえだろ。いくら夏だからって、こんなに早く死体が痛むはずがねえよ。」
「なんでこれが加藤さんなんだよ。」
「だ、だって、この服、俺に見せてきたんすよ。伊佐薙さんとデートに行くのに服を買っちゃったって。確かにこの黄色の花柄のワンピース。それに、この指輪、彼女のお気に入りで、俺指輪なんて興味ないのに、高かったのよ、っていつも自慢してたもの。」
「な、なんで彼女だけミイラになってんだよ。しかも、なんか泥だらけだぞ?このミイラ。」
「わかんないす。それより先輩、伊佐薙さんも、息、してないみたい。」
「マジ?きゅ、救急車!いや、け、警察か?」
その場で3人はパニックになった。
玄関で管理人が吐しゃする音が聞こえた。
窓辺には、何も植えられていない植木鉢がぽつんと置いてあった。
「思い人を蘇らせるには、若い女性の肉体が必要ですよ。」
絵描きは笑った。
「そんなの、無理だよ。」
男は苦笑いした。
今日もどこかでウラガエシの種を持った絵描きの女が、思い人を描いているかもしれない。
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