第1章 紅蓮の使徒

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「…ホレ!ルーナ。これも持っていけ!」 ルーナが振り向くと、小屋から鼻歌交じりに飛び出してきたダスティンの腕には、柔かそうに焼きあがったパンが山のように抱えられていた。 「やだ、おじいちゃん、そんなにたくさん!?」 「何せ昔からお前は男顔負けの食欲だからのう。これでも三日と持つまい?」 「もう!…失礼ね!」 ルーナが真っ赤になり頬を膨らませると、ダスティンは声高らかに笑った。 それもまた、寂しさを紛らわすための老人のおどけた計らいだった。 それでもルーナはその山のようなパンを大事に皮袋へ詰め、口を絞ると、大切そうに鞄の紐に通した。 「ありがとうね。…おじいちゃん」 「・・・・ルーナを頼んだぞ。…テラ。」 『…任せてよ。おじいさん!』 ルーナの旅立ちの気配を察し、村の者たちも集まってきた。 「もう行くのかい?…やっぱりネゴシエータって、忙しいんだな。」 「また、話し聞かせてくれよ?」 口々に言う人々に、ルーナは立ち上がると一礼をした。 ダスティンはルーナをもう一度柔らかく抱きしめた。 噛み締めるように皺だらけの瞼を下ろし、ゆっくりと深呼吸した。 「…心のままに進めばきっと、すべてがうまく行く。…信じとるよ。ルーナ」 ルーナの喉を、堪えきれない嗚咽がのぼって来た。 おじいちゃん。ごめんね。 寂しい思いばかりさせてるのに… ルーナもひとしきりダスティンをきつく抱きしめ、それから振り払うようにテラの背に飛び乗った。 『さようなら!おじいさん!』 涙に咽び言葉に出来ないルーナの代わりに、テラはそう叫ぶと、緋色の翼を拡げ、あっという間に空高く飛び上がった。 「…元気でのう!」 村の人々の歓声に混じり、ダスティン老人の叫びが、確かにルーナの耳に届いた。
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