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「…ホレ!ルーナ。これも持っていけ!」
ルーナが振り向くと、小屋から鼻歌交じりに飛び出してきたダスティンの腕には、柔かそうに焼きあがったパンが山のように抱えられていた。
「やだ、おじいちゃん、そんなにたくさん!?」
「何せ昔からお前は男顔負けの食欲だからのう。これでも三日と持つまい?」
「もう!…失礼ね!」
ルーナが真っ赤になり頬を膨らませると、ダスティンは声高らかに笑った。
それもまた、寂しさを紛らわすための老人のおどけた計らいだった。
それでもルーナはその山のようなパンを大事に皮袋へ詰め、口を絞ると、大切そうに鞄の紐に通した。
「ありがとうね。…おじいちゃん」
「・・・・ルーナを頼んだぞ。…テラ。」
『…任せてよ。おじいさん!』
ルーナの旅立ちの気配を察し、村の者たちも集まってきた。
「もう行くのかい?…やっぱりネゴシエータって、忙しいんだな。」
「また、話し聞かせてくれよ?」
口々に言う人々に、ルーナは立ち上がると一礼をした。
ダスティンはルーナをもう一度柔らかく抱きしめた。
噛み締めるように皺だらけの瞼を下ろし、ゆっくりと深呼吸した。
「…心のままに進めばきっと、すべてがうまく行く。…信じとるよ。ルーナ」
ルーナの喉を、堪えきれない嗚咽がのぼって来た。
おじいちゃん。ごめんね。
寂しい思いばかりさせてるのに…
ルーナもひとしきりダスティンをきつく抱きしめ、それから振り払うようにテラの背に飛び乗った。
『さようなら!おじいさん!』
涙に咽び言葉に出来ないルーナの代わりに、テラはそう叫ぶと、緋色の翼を拡げ、あっという間に空高く飛び上がった。
「…元気でのう!」
村の人々の歓声に混じり、ダスティン老人の叫びが、確かにルーナの耳に届いた。
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