1人が本棚に入れています
本棚に追加
序章~少年の夢の中~
『りゅう……ま、さん……』
また……、この夢か……。
何もないこの空白の世界に、俺はポツンと一人で立っている。そして、毎回どこからか俺の名前を呼ぶ女性の声が響いてくる。
聞いた事のない声……。
いや、もしかしたらどこかで『昔』に会ったのかもしれない。
俺は八年前から記憶喪失になっている。
そして何故か、体が幼児化。
何故こうなったのか、俺には判らない。
『りゅうま……さん……』
また、俺を呼ぶ女性の声。
今度の夢は何故か長く感じる。
いつもと……、何だか違う……。
誰なんだ?
あんたは一体、誰なんだ?
何で俺の事を知っている?
何で……、何でそんないつも悲しそうな声で俺の名前を呼ぶんだ。
その時だ……。
俺の前に、ぱぁぁーっとまぶしい光が突然と輝き始める。
俺は顔を覆う。
くっ……!まぶしい……っ!!
だがそれは一瞬だった。
まぶしい光は止まる。
俺は、目を開けると同時、目を見開せてしまう。さっきまで、辺りは何もない空白の世界……、だったはず。
だけど……。
どこだ、ここは?
辺りは一面、ひまわり畑……。
いつの間にか俺は、そこに立っていた。
『りゅうまさん……』
その時、後方にいつも俺の事を呼び掛けている女性の声が耳に入る。
俺は振り返る。
そこには、やはり女性が立っていた。
右側を中心に、長い髪を三つ編みで束ねた女性が。
え……?
俺はまた、目を見開かせてしまう。
………………杏梨…………?
いや、違う。
杏梨と同じ茶髪だが、髪は長いし何より大人の女性。でも、容姿は髪など長くなければ本当に杏梨と間違うかもしれないぐらい似ている。
そして、瞬時に思い出す。
杏梨の家の玄関に掛けている写真立て。
写っているは思い出せないが家族写真。
そこに、まだ幼い杏梨を大事に抱き抱えてる女性……。
何で……、あんたが?
一体、これは……。
女性は、悲しい顔で俺を見ていた。
『りゅうま……さん……』
女性はきゅっと唇を小さく噛み締めていた。
そしてそのまま、俺に向け手を差しのべる様に右手を前に出していた。
俺は何故か、その人の手を掴みたかった。だから、俺も前に出す。
けど、杏梨の_________は、俺が手を差しのべる直後にまるで煙の様に消え始める。
最初のコメントを投稿しよう!