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「うわああああぁぁぁぁァァァァッッ!!」
ガバッ!!と、少年は勢い良くベッドから起き上がる。体全身からは冷たい汗が流れていて、口からは荒い息。
「はぁーッ!はぁーッ!」
少年は辺りを見渡す。
空白の世界や、辺り一面ひまわり畑や闇の世界などではなく、ただの小さな三畳間の部屋だった。
「俺の部屋……。そうか、杏梨の家。って事はあれは夢……」
ずっと見てきた夢だったが、あの夢はずっと見てきた夢と何か違う。
「頭も……、痛くねぇ」
少年は頭を押さえる。
そして、窓側のある方向を見据える。
カーテン越しには微かに照らされる光。
チュンチュンと小鳥のさえずる複数の鳴き声。
「朝……か……」
そう小さく呟きながら、少年は近くに設置している目覚まし時計を見やる。
針は五時半を指していた。
結構な声を上げながら起き上がってしまったが、別の部屋で寝ている杏梨を起こす事はなかった。
少年は安堵と共に疲れた様に嘆息をつく。
「むにゃー。りゅうまぁ、大丈夫じゃきか」
その時、少年の近くにぶわっと黒い空間、つまり虚空が現れ赤いトカゲの様な生物が現れる。
赤いトカゲの様な生物は、十代前半の少年、"龍馬"(りゅうま)を、寝起きながらじゃっかん目蓋を落としながらも、心配そうに見据えていた。
龍馬「大丈夫だ"チャイドラ"。ちょっと悪ぃ夢を見てしまっただけだ。起こしてわりぃ」
チャイドラ「そう……じゃきか」
そう、淡々と声のトーンを落としながらチャイドラは目蓋を落とし、虚空の中へ戻る事を忘れ、龍馬が寝ていたベッドに小さくるまりながら寝始める。
龍馬は自分のベッドで寝始めたチャイドラを小さく微笑みながら見据え、そのままベッドから立ち上がり部屋へと出る。
リビングを通りながら、龍馬が目指したのは玄関だった。だが、外に出る為に玄関に足を運んだわけではない。
少年は玄関の靴を履き場所の横に設置されている、木製でできた靴箱に目をやる。正確には、その靴箱の棚の上に置かれている写真立て。
その写真は、八年前に起きた原因不明の大爆発『アンノウン・バースト 』が起きる前の、幸せだった頃の写真。昔の記憶なくなってしまっているが、この写真に写っているのは、まだ幼い頃の杏梨。そしてその杏梨を、優しく微笑みながら大事に抱えている椎名杏梨の母親。隣に大きく笑いながら立っている父親。
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