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「振り向かせたい!」
教室の真ん中で、琉奈は両手を机に叩きつけて立ち上がった。
何事かと、クラスメートは琉奈に一斉に注目したが、それもつかの間だった。次には何事もなかったかのように、個々の時間に戻っていく。いつものことなのだ。
「……あっそ」
琉奈に相づちを打つものがいた。彼女に叩かれた机の、持ち主だ。最近では、琉奈と会話をするたびに、この展開になる気がする。
「陽子! もっとリアクションとってよ!」
「うわー、びっくりしたー」
スマートフォンを片手に、陽子と呼ばれた少女は口と指以外は動かさない。つまり、琉奈の方を見向きもしない。
「そうじゃなくて、もっとちゃんとしたリアクションを――ってスマホ弄るのやめてよ!」
「あ……。ちょっと、なにするの。返して」
「もっと親身になって聞いてよ! 私は真剣に悩んでるの!」
「聞いてるわ。それこそ毎日のようにね。どうせまた、センパイをどうやったら振り向かせられるかを長々と話すんでしょ? いい加減、もう聴き飽きたんだけど……」
「そうだよねごめん! でも今日も長々と話す! 私、ひとりであれこれ考えるの苦手で……」
「知ってる」
「陽子に吐き出してると、なんかいいアイデアが浮かぶかもしれないの! だからお願い! 力を貸して」
「こっちとしては、いい迷惑なんだけどね……。なら、直接聞けばいいんじゃない? 優しいセンパイなら教えてくれるかもよ」
「本人に直接聞きたくないよ!」
ああ言えばこう、こう言えばああとキリがない。これもいつものこと。陽子は心の中で溜息を吐いた。
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