アンズを求めて三千里

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        *    * 「今回もまた、ちょっかいを出してきましたのね」  一日二個限定超絶激レア人気パン“焼きそば()カツ()コロッケ()クリーム()パン”。  手に入れた幻のパンの包装を取りながら、彼女は嫌味ったらしく呟いた。四限目は体育だったのか、似合わない体操着を着用している。 「まったく、これだから庶民は……。そのどん欲さだけは、褒めて差し上げますわ」 「こっちの台詞だな。毎回毎回あたしの邪魔をするとは、令嬢サマのくせにやることがえげつねぇ」  嫌味を言われたら、千里も負けじと言い返す。この令嬢サマは、よりによって千里が購買部に来る日に限って、まるで(トビ)のように横からパンをかっさらっていくのだ。おかげさまで千里は、一日二個限定のこのパンを、二つとも同時に買えたことは一度もない。 「え、えげつないとは無礼な……。いいですこと? あたくしはこのパンを食べたいから購入したのです! しっかりと代金を支払っているので、いつどこで誰が食べても同じことですわ」 「まあ……そのために一個じゃないしな」 「でしょう?」  お嬢様らしく、小さな口で上品にパンをかじる彼女の名前は、堂園杏子(あんず)。 「はあ……。そよ風が涼しいですわ♪」  髪を揺らす風に当たりながら、杏子が天を仰ぎ、それを千里が冷めた目つきで見つめる。  彼女たちが今いるこの場所は、校舎の最上階の、さらに上の階。“屋上”だ。本来なら立ち入りが禁止されているが、職員室からこっそりと鍵をくすねて持ち歩いている千里の領域として有名だ。昼の休み時間は、決まってここに滞在することにしている。 「……で、いつも同じ質問をしてるが、あたしの安息の場所にあたりまえのようにいるのはなんでだ?」  今度は千里が、杏子を睨みつけた。  この屋上は、一年前に密かに見つけた、千里だけの秘密基地――いわゆる縄張り(テリトリー)だ。他人なんぞに、それもコイツなんかに、土足で入ってきてほしくないのだ。  
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