86人が本棚に入れています
本棚に追加
/267ページ
指摘された杏子は、ムッとするわけでもなく、涼しい顔で、
「あら、別に減るものではないので、良いではありませんか。貴女だけの場所と思ったら、大間違いですわよ?」
「いや、あたしだけの場所だろうよ。関係者以外立ち入り禁止なんだから入ってくんなや」
「まあっ、失礼な。あたくしだってこの学園の正式な生徒……。謂わば貴女と立場は同等。関係者以外と見なされること自体、心外ですわ。そもそも、この場が厳重に施錠されているということはそれ相応の理由が――」
「イチイチ真面目に返すな。それとその口調、回りくどい。聞いていてイライラする」
「これがあたくしこと堂園財閥グループの跡取り娘、堂園杏子ですわ。この威厳あってのあたくし……崩すなどという無礼な真似は致し兼ねますわ!」
「そーかい。で、もう一度聞くが、なんでここにいんだ?」
「あら。貧相な庶民には理解に及ばないので?」
「だってさっき、減るものじゃない、ってごまかしたから」
「ごまかしてなどしていませんわ」
「んなら、ありゃなんだ?」
千里はフェンスにもたれ掛かりながら校庭を指差した。
学生の学舎という場に不釣り合いな、紺色のエプロンドレスを身に包んだ女性が、しかも複数人――校庭のあちこちで、まるで脱走した愛猫でも捜しているかのように右往左往している。歩くたびに、そのエプロンドレスの白いレースが、ヒラヒラとなびく。
全員が、頭にレースと同じ色の布を飾り付けていた。それが一般的にヘッドドレスと呼ばれるものを、千里は知らない。
最初のコメントを投稿しよう!