アンズを求めて三千里

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  「ありゃ、あんたんとこのメイドっていうお手伝いさんじゃないのか? あれ多分、あんたを探してんだよ」 「………………」  口をつぐむ杏子だが、目は少し泳いでいた。どうやらまた振り切って逃げてきたらしい。このあいだ校内新聞で読んだ。 「しかしまあ、マジであんたってお嬢様なんだな。メイドとか初めて見たし」 「……あの人たちは、単なるお手伝いさんですわ。血も繋がっていない、赤の他人であることに変わりありませんわ」 「……?」  いつもの他者を見下す態度とは違って、少し弱気な彼女の言動に思わず千里は動きを止めた。そんな空気に気付いた杏子は、 「まあ、べつにっ! 発想も身体も貧相な貴女には関係のないことですわよ! お母様は優しいし、お父様はチョロいしメイドたちは順従だし、あたくしは生まれもったこの権力を最大限に駆使して超贅沢して幸せに生きていますから! おーっほっほっ!」 「けっきょく自慢したいだけじゃねーか! ちょっとしんみりしちまったあたしの良心を返せよ」 「勝手に湿っぽくなって勝手に同情してきたのは貴女の方ですわっ! おーっほっほっほっ! ようやくあたくしは貴女を貶めることに成功したわけですわ!」 「なんなんだ、いったい……。金持ちっつー種族は、みんなこうなのか……?」 「こうとは無礼なっ!」  耳を傾けているといつまで経っても前へ進まないと判断した千里は、「で?」と無理やり話しを切り上げる。  
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