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「ねぇ千里ちゃん? あなたと、もう一人いつも来てくれる女の子いるでしょ? 今日は来ないのかしらねぇ」
「そういえば……」
昨日、あんなに啖呵を切った杏子が、未だに姿を見せないのだ。
「そのはずなんだけど、来ない。おかしいな……」
「今日はお休みなのかしらねぇ」
千里と女性が共に唸っていると、
「あ! YC3パンがまだ売れ残ってるっ!」
別の女生徒が来て、残り一つのパンを買ってしまった。
「あっ……」
止める間もなく、女生徒は去って行ってしまった。
「………………」
YC3パンは、生徒のために作られているパン。なにも千里と杏子だけのパンではない。けれど今まで購入していたのが自分と杏子だけだったためか、別の誰かが買うと、言いようのない失望感が感じられた。
「……千里ちゃん?」
「! あ、はい?」
「大丈夫? なんだか、顔色が優れないけれど……」
「あ、いや……大丈夫、です。気にしないでください。パン、ごっそさん」
千里はペコリと頭を下げると、そのまま校舎に入って、階段をゆっくり上がる。一階、二階、自身の教室がある三階をも通り越して、四階の更に上、屋上へ向かった。
鍵を取り出して開ける。錆び付いた扉が軋んで、青い空が視界に飛び込む。
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