アンズを求めて三千里

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 しかし、二年の終わり頃。予期せぬアクシデントが発生した。  ある日、いつも通り、千里が四時限目をほっぽりだしてパンを買いに行った時。見知らぬ女性がYC3パンの一個を買っていたのだった。これを自分以外に買える人間がいたことにも驚いたけれど、それ以上にこの女性が、ヒラヒラしたドレスを着ていることの方がもっと驚いた。メイド。千里は生まれて初めて見た。 「“焼きそばコロッケカツクリームパンの貴女”で、ございますね?」  戸惑っていると、そのメイドから声を掛けられた。自分のことだとは思えなかったが、購買部の周りには自分とメイドしかいなかっため、思わず千里は「はい」と返事をしてしまった。  メイドは、さようですか、と言って、 「我が主こと、堂園杏子お嬢様より伝言です。『これからこのパンは、あたくしが毎日全てを買い占めて差し上げますわ! “YC3パンの貴女”! 覚悟なさい! おーっほっほっほっ!』」 「はぃ?」 「では失礼いたします」  役目を果たし終えたメイドは、そのまま何事もなかったかのように、悠然と歩き去っていったのだ。それが、この闘いの幕開けだった。 (……懐かしいなぁ)  それが丁度、一年前。もう一年も経ったのだ。 (それなのに今日は……)  今までこんなことはなかった。あれから杏子は、律儀に、事毎にパンを買いに来ていた。 「なんだかなぁ……」  流れる雲を見つめながら、千里は今日、久しぶりに独りで昼休みを過ごした。    
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