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「……なんで来ないんだよ」
苛立ち。失望。孤独感。気持ちのよいものでない感情が、千里の身体を取り巻く。次第に千里は、拳を握りしめていた。
「あーっ!」
「っ!」
「また売れ残ってるー! 最近私ツイてるかも♪」
現れたのは、杏子ではなかった。昨日の女子生徒だ。恐らく購買部の常連なのだろう。
そして千里は迷っていた。
このまま彼女に買わせてしまっては、もう一生、杏子がここに来ることはなくなってしまうかもしれない。そんな気がした。そんなの嫌だ。来てほしい。ここに、来てほしい。杏子に会いたい。話をしたい。
「お姉さん! やっぱもう一個買う! 」
気が付けば千里は、そう叫んでいた。
「えーっ! だってあなた! 一個買ったんじゃないの?」
当然のごとく女子生徒から難癖をつけられる。至極真っ当な意見に、千里は一瞬にして考えた言い訳を早口で述べる。
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