アンズを求めて三千里

15/38
前へ
/267ページ
次へ
  「……なんで来ないんだよ」  苛立ち。失望。孤独感。気持ちのよいものでない感情が、千里の身体を取り巻く。次第に千里は、拳を握りしめていた。 「あーっ!」 「っ!」 「また売れ残ってるー! 最近私ツイてるかも♪」  現れたのは、杏子ではなかった。昨日の女子生徒だ。恐らく購買部の常連なのだろう。  そして千里は迷っていた。  このまま彼女に買わせてしまっては、もう一生、杏子がここに来ることはなくなってしまうかもしれない。そんな気がした。そんなの嫌だ。来てほしい。ここに、来てほしい。杏子に会いたい。話をしたい。 「お姉さん! やっぱもう一個買う! 」  気が付けば千里は、そう叫んでいた。 「えーっ! だってあなた! 一個買ったんじゃないの?」  当然のごとく女子生徒から難癖をつけられる。至極真っ当な意見に、千里は一瞬にして考えた言い訳を早口で述べる。  
/267ページ

最初のコメントを投稿しよう!

86人が本棚に入れています
本棚に追加