アンズを求めて三千里

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  「ごめん! 本当にごめん! けど早い者勝ちだ。あたしの方が早かった。明日からは一個しか買わない。だから今日だけは譲ってくれ。いい?」 「え? う、うーん……。ま、まあ、うん。それなら……いいよ、諦める」 「本当悪い」  意外にもあっさり引いてくれ、千里は少し拍子抜けた。自分と違って、マナーを守れる良い子で助かった。 (しかし……これをどうするんだあたしは……)  ようやく二個買えた。長かったが、ようやく当初の目標を達成できた。しかし千里は、これを一人で食べようとは欠片も思わなかった。 (かと言って、どうしたもんかなぁ……ん? この子……)  先ほどの女子生徒はYC3パンが買えなかったため、違うパンを買っていた。が、千里が目を付けたのは彼女の履いている上履きだ。女子生徒の所属しているクラスが、マジックペンか何かで書かれている。そしてそれは、確か杏子のクラスでもあったような気がする。 「あのさ、君……」 「あ、はい?」 「クラスに、堂園杏子って子がいる?」 「堂園さん? うん、いるよ」 「彼女の家……知ってるかな? 今日お休みでしょ? お見舞行きたくてさ……」 「あ、おウチですか? 知ってる知ってる! 大きくてここらじゃ有名だからすぐ分かるよ」  女子生徒は、ポケットからメモ帳を取り出し、地図を書いて渡してくれた。  
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