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"思考停止"っていうのはこういう状態のことをいうんだ。
と、妙に落ち着いた別の私が頭の中でこの状況を判断した。
講堂に黄色い悲鳴が上がるのをどこか遠くでぼんやり眺めているような錯覚に陥る。
真っ白の空間に耳になんにも入ってこない無音の世界に取り残された気分だ。
その中で棒立ちになってる私は酷く滑稽で、フワフワした足元が不安定な気がする。
黄色い熱気のせいか、私を取り巻く空気が薄い。
酸素濃度低下。
思考回路が回らない。
苦しい……かも。
「──杏ッ(アン)!」
前に並んでいた紗雪(サユキ)に肩を掴まれてハッと我に帰ると、現実世界に引き戻された。
首を傾げた見慣れた顔が私を覗き込むように視界に入る。
「あ、 何?」
「『あ、何?』 じゃないわよ! ボーッとしちゃって、人の話聞いてた?」
「…ごめん、 全然」
まったく、と小さくぼやいて壇上を示す紗雪の指の先を辿って視線を向ければ、女子たちの黄色い悲鳴を巻き起こした張本人が他の教諭と並んで立っていた。
うそだ。
こんなドラマや小説みたいな展開いらない。
その姿から、ゆっくり視線を外す。
「うちらの副担とかラッキー」
クラス担任の発表を終えて嬉々とする紗雪の横で私は何も言えなかった。
壇上にいるのは彼だ。
忘れていたはずなのに、
もう何年も会ってないのに、
気付いてしまう自分自身に自分で驚く。
脳内であらゆる伝達物質が駆け巡ってるはずなのに、頭が、身体が、心が、ついていかない。
意図せず視線は再びその姿を追って、縫い止められたみたいに彼から離れなくて。
動けなかった。
人って驚きすぎると何もできなくなるらしい。
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