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中学1年。
わたしはとなりの男子に何度も話しかけた。
彼は反応はいつも気怠そうだった。
その態度にめげるつもりも、負けるつもりもなかった。
彼の反応はいつも同じ、だけどちゃんと返事をくれた。
『よく佐久間くんと話せるね』
『わたし話しかけたら嫌な顔されたよ』
『男子とは笑って話すのに、女子嫌いなんじゃない?』
クラスメイトの女子から何十回も聞かされた。
それでもわたしは佐久間に話しかけつづけた。
中学1年の2月、バレンタイン。
彼の図書委員の仕事が終わるまで、
そこに用意されている数少ない漫画を読んで待った。
図書室が開放されていることを誰も知らないのではないかと思うくらい、もしくは本当に需要がないのか。この日ここへ来たのは、バッチの色で3年生と分かった男子が2人。
午後4時50分。
夕焼け小焼けは、紺色に大半を支配されている。居るのは2人だけ。
カウンターに座って小説を読む彼の元に近寄る。
彼はこちらを1度も見ない。
「佐久間は」
名前に反応して顔を上げた彼は「なに」とやっと口を開いた。
「佐久間は女子が嫌い?」
「わたしのことも嫌い?」
「わたしは佐久間のこと好きだよ」
姉とデパートに行った時に買った正方形の小さな箱。
それを彼の手の中で開かれたままの本の上に置く。
図書室の効きすぎた暖房とは反対に、廊下では白い息が面白いくらいに出来上がった。
それからも、わたしは彼に話しかけた。
「チョコはいくつ貰えたの、かっこいい曲見つけたよ、今読んでるのは何の本?」
彼は1度小さく溜め息をつく。
横目でわたしを見る。温度のない声で答える。
「いっこ、UKRockしか興味ない、小説」
小説という答えは、たぶん20回目だった。
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