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何も変わらない日常は、わたしが望んだこと。
朝起きて、顔を洗って、朝ご飯は食べない。
学校へ行って、友達としゃべる、授業を受ける、給食をたべる。
授業を受ける、友達としゃべる、下校時間には寂しくなる。
この『何も変わらない日常』の中に、何回も挟むのが『彼と話すこと』
わたしの言葉に笑うことも、怒ることも、泣くこと何てありえない。
表情、視線、声色、溜め息はいつも一定。
だから、わたしは一喜一憂することもない。
心を掻き回されることも、乱されることもない、常温のわたし。
そもそも、わたしはなぜ告白したのだろう。
そう考えたら、口に出したことで満足していた。
望んだ日常には、1mmの淡い期待も必要がなかった。
本を読んでいてもお構いなし。
彼の前の席に座る。
「UKRockってイギリスのRockってこと?」
「はぁ…」と1度小さく溜め息。
今回は正面からわたしを見る。温度のない声で言う。
「付き合う?」
「うん」
「じゃあ、本読むから邪魔しないで」
そう言って彼は本に目線を戻す。
「でも具体的に、“付き合う”が分からない」
「…」
わたしの質問を兼ねた言葉を聞きながら、本を読みつづける。
授業中にしか空にならない、彼のメガネケースを手に取って、
蓋を開けたり閉めたり、カチカチと音を立てる。
初めての無反応。
わたしはカチッと強く蓋を閉める。
「わからないから、やっぱりいいや」
「…そう」
本をなぞるように彼の視線は動いたまま。
わたしは右手でその視線を止めようと本の内側に手を翳す。
彼は冷静に顔を上げた。
「わたしが佐久間 綾のこと好きだって分かっててくれたら、それでいい」
「…そう」
左手に持っていたメガネケースを取り上げられる。
「…わかった」と小さく答えた彼が、自分の前髪を握って形を崩す。
柔らかそうな髪は彼が本に目を落とすと、重力にならって元の位置に落ちた。
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