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授業終了のチャイムが鳴って、2分後。
「佐久間、教科書ありがと」
いつもの席。いつも通りでないのは、となりに女子がいること。
「佐久間くん、友達きたよ」
佐久間の代わりにその女子が返事をする。
彼は無言のまま、わたしから教科書を受け取るとそれを机にしまい、
代わりに見慣れたブックカバーを付けた本を取り出す。
そして終始無言のまま、しおりを探しその続きを読みはじめる。
わたしも同じように無言で自分の教室へと戻った。
「塚原」
昼休み、クラスの女子と廊下で話していると、佐久間が現れた。
彼の方から声をかけてきたのは初めてだった。
それでもわたしは動揺をすることも、怯むこともなかった。
「なに?」
2年になって彼は背が伸びた。
頭一つ分高い彼の目に自分の目を向ける。メガネはかけられたまま。
「これ」
そう一言、メガネを外す、自分の教室までの廊下を歩く。
慣れないことをしても、1mm足りとも動かない表情にくすりと笑う。
「なに!?ラブレター?」
「CDのリストだよ。洋楽で聞きやすいの教えてって言ってたから」
急に色めき立つ友達に、わたしは二つ折りのルーズリーフの中身を確認せずに適当に答えた。
そして渡された時点でクシャクシャにされていたそれをブレザーのポケットにしまって、さらにクシャクシャになるように握った。
日曜、午後1時53分
家から一駅先にある公園。
イヤホンを耳に付けて、佐久間 綾は、ベンチに座っている。
胸に赤いロゴが付いた黒のポロシャツと、デニムのスキニーパンツ、足元はハイカットの黒のスニーカー。
「どこ行くの?」
わたしが声を掛けると、イヤホンを耳から外して丁寧に巻き上げ、
パンツの後ろポケットにしまいながら彼は答える。
「決まってない」
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