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廊下で渡されたクシャクシャのメモ。
[ 日曜 14時 ○○公園
行きたい所があるから来て ]
あの手紙はなに?
「何かしたいことは?」と聞いてくる彼。
「ん~、特にない。佐久間決めて」
行きたい所はいくらでもあった。水族館、映画、買い物。ベタなコース。
だけどどれも彼が興味を示す場所じゃないことは知っていた。
「10分歩くけどいい?」
わたしは黙って頷いて、彼が押す自転車の横を歩く。また他愛もない質問を投げかけながら。
自転車を駐輪場に停めるのを待ち、彼が振り返るのを待っていると、「ここ」と無愛想に言う。佐久間の家のマンションだった。
わたしは黙って彼に続く。乗り込んだエレベーターで再び質問を続けた。
「お父さんとかお母さんは?」
「仕事」
「お家上がっていいの?」
「良くなきゃあげない」
「そっか」
「お邪魔しまーす」
綺麗な玄関と長い廊下。靴を脱ぎそれを揃えて1歩廊下を進むと、額にきちっとはめられた家族写真が目に入る。
「左の部屋」
後ろから聞こえてくる佐久間の声に、写真から目を離して、向かって左にある扉を開ける。
無機質でモノトーン。佐久間そのものの部屋だった。
壁には1枚だけポスターが貼られている。外国人がピックとやらを口に咥えて、ギターを弾く大きなポスター。
「お茶、ジュース?」
廊下から聞こえる声に、「お茶」と返事をして、さらに部屋を見回す。背の高い本棚に敷き詰めるように並べられた本、机の上にはノートパソコンと高校の入試対策本。そして大きなベッドと、一人掛け用ソファ。
「座れば?」
コップを2つ手にした佐久間に言われて、自分がずっと立っていたことにやっと気づいて、ベッドを背に腰を下ろす。
「高校生とか大学生の部屋みたい」
「元々、兄貴の部屋だったから」
「ふ~ん」
「あれとか」と佐久間が指さしたのは、大学センター試験用の分厚い辞書のような本。用意してもらったお茶に口をつける。「佐久間は座らないの?」と訊くと、無言で勉強机の奥へと押し込まれていた椅子を引き出して座る。
午後6時。なんてことない他愛のない話。いつも通りわたしの一方的なそれはまるで、事情聴取。
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