2年生

4/4
前へ
/8ページ
次へ
廊下で渡されたクシャクシャのメモ。 [ 日曜 14時 ○○公園 行きたい所があるから来て ] あの手紙はなに? 「何かしたいことは?」と聞いてくる彼。 「ん~、特にない。佐久間決めて」 行きたい所はいくらでもあった。水族館、映画、買い物。ベタなコース。 だけどどれも彼が興味を示す場所じゃないことは知っていた。 「10分歩くけどいい?」 わたしは黙って頷いて、彼が押す自転車の横を歩く。また他愛もない質問を投げかけながら。 自転車を駐輪場に停めるのを待ち、彼が振り返るのを待っていると、「ここ」と無愛想に言う。佐久間の家のマンションだった。 わたしは黙って彼に続く。乗り込んだエレベーターで再び質問を続けた。 「お父さんとかお母さんは?」 「仕事」 「お家上がっていいの?」 「良くなきゃあげない」 「そっか」 「お邪魔しまーす」 綺麗な玄関と長い廊下。靴を脱ぎそれを揃えて1歩廊下を進むと、額にきちっとはめられた家族写真が目に入る。 「左の部屋」 後ろから聞こえてくる佐久間の声に、写真から目を離して、向かって左にある扉を開ける。 無機質でモノトーン。佐久間そのものの部屋だった。 壁には1枚だけポスターが貼られている。外国人がピックとやらを口に咥えて、ギターを弾く大きなポスター。 「お茶、ジュース?」 廊下から聞こえる声に、「お茶」と返事をして、さらに部屋を見回す。背の高い本棚に敷き詰めるように並べられた本、机の上にはノートパソコンと高校の入試対策本。そして大きなベッドと、一人掛け用ソファ。 「座れば?」 コップを2つ手にした佐久間に言われて、自分がずっと立っていたことにやっと気づいて、ベッドを背に腰を下ろす。 「高校生とか大学生の部屋みたい」 「元々、兄貴の部屋だったから」 「ふ~ん」 「あれとか」と佐久間が指さしたのは、大学センター試験用の分厚い辞書のような本。用意してもらったお茶に口をつける。「佐久間は座らないの?」と訊くと、無言で勉強机の奥へと押し込まれていた椅子を引き出して座る。 午後6時。なんてことない他愛のない話。いつも通りわたしの一方的なそれはまるで、事情聴取。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加