オマエダ

6/8
前へ
/8ページ
次へ
ボケてる。話にならない。 俺は少し離れて座っているサラリーマンに聞いてみた。 「カエラズ駅からどうやったら東京まで帰れます?そこからどこ行きの電車に乗ったらいいんでしょう?」 「わからない。そんなことは終点で聞いてくれ。」 こちらも虚ろな目でそう言う。なんなんだ、この車両は。まともな人間は乗ってないのか。俺はあたりをキョロキョロ見回した。 それにしても変だ。いくら田舎とはいえ、この人の少なさは異常だろう。 俺は他の車両も捜したが、どうやら乗客はあの二人だけらしい。 俺はもう一度、タカオにメールした。 「ボケた婆さんと、変なサラリーマンしか乗ってなくて、詳しいことがわからない。」 すると、すぐに返信が来た。 「じゃあ、車掌に聞いてみる?先頭車両のところに居るだろ。」 俺は先頭車両まで歩いて、車掌室まで行った。車掌室をノックしてみた。 返事が無い。ほかの車両をまわってるのだろうか。 仕方なく、俺は先頭車両からずっと歩いて、最後尾まで行ったが車掌と全く会わない。 車掌何してるんだ。 「車掌が居ない。車掌室もカーテンがしてあって、中の様子は見えない。」 俺がメールをすると、タカオから返信が来た。 「じゃあ、仕方ないから終点まで行くしかねえな。どうせ、止まらないんだろ?」 俺は諦めの溜息をついた。やれやれ、ちゃんと帰れるんだろうか、俺。 不安な気持ちのまま、俺は終点まで座席に座っていた。 あのボケた婆さんが口の中でぶつぶつ何事か言っている。 何なんだ。よく聞いてみると、読経のようだ。 なんだよ、気持ち悪いな。俺は、早く終点に着くことを願った。 電車のスピードが落ちて行き、車窓から看板らしきものが見えてきた。 「不帰」 これでカエラズと読むのか。なんだか、縁起悪い。 俺は見たことも無い駅に着いた。 俺が席を立つと、老女とサラリーマンも降りようと席を立つ。 老女は、自分の横にある杖を掴もうとするが、つかめないようだ。 世話がやけるなあ。俺はそう思いながら老女を助けてやろうと近づいたのだ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加