オマエダ

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駅のベンチに若者が座っている。助かった!あの若者に聞いてみよう。 「すみません。」 俺が声を掛けると男は顔を上げた。 「タカオ!」 俺は意外な男の顔に驚いた。 「オマエダからどうやってここまで来たんだ?」  タカオの口がゆっくり開く。 「シンジ、お前、もう帰れないんだよ。」 何を言ってるんだ。俺は理解できなかった。 「お前、相変わらず鈍いな。」 タカオが笑った。 「俺はお前を迎えに来たんだよ。ほら、電車の中で、次はオマエダって言ってたろ。」 「あ、あれは駅の名前じゃないか。「小前田」だろ。」 「あの電光掲示板、いつもはちゃんと「小前田」って出てるんだよ。」 「じゃ、じゃああの電車は・・・。」 「お前、もう生きてないんだよ。死んでるの。」 「嘘だ。俺は今、こうして歩いて、しゃべっている。生きている!」 俺が叫ぶと、タカオは溜息をついた。 「まだ思い出せないの?ほら、小前田に着いた時を思い出せ。」 俺はタカオの言葉を手繰っていくと、だんだんと記憶が曖昧になってわけがわからなくなってきた。  駅について、タカオが手を振る。いや、タカオは居なかったんだった。 「俺、3年前のあの日、自殺したんだ。」 タカオの目がビー玉に見えた。 「お前をずっと恨んでいた。ずっとな。俺にとって涼子は初めての彼女で全てだったんだ。」 俺の体が宙に浮く。 そして、悲鳴。急ブレーキの音。 「俺は密かに森で首を吊った。お前を恨みながら。」 体に今まで感じたことのない衝撃が走る。 車体は俺の腕と足を弾き飛ばしながら、急ブレーキをかけた。 「だから、次はオマエダ。」 許されてなどいなかった。 俺は最後まで鈍い男だ。 ーーーーーーーーーーーーーーーー ただ今、人身事故のため、電車が遅れております。 しばらくお待ちください。 スマホを片手に、涼子は小さく舌打ちをした。
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