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第1章
午後十一時五七分。最終電車を待つ、
そのプラットホームに人の姿はまばらにしかなかった。
彼らのほとんどは中年のサラリーマンで、
足元もおぼつかないほどの酔客ばかりだ。
屋根を支える支柱によりかかってうたた寝している者、
ベンチに横たわって失禁している者、
冷たいコンクリートの地面に座りこんで大声でグダをまいている者、
ホームから線路(せんろ)に向かって、
おじぎをするように身体を折り曲げながら
ゲロを吐き出している者もいる。
そんな醜態をさらす中年のオヤジたちに、
時折、侮蔑の視線を送りながら鼻で嘲笑っている少女がいた。
白いブラウスにブルーのネクタイ、
太ももも露わなチェック柄のミスカート。
肩には黒っぽいトートバッグを下げている。
おそらくどこかの女子高校生だろう、
そのトートバッグには校章らしきものが刺繍されていた。
Ipodで流行りの楽曲を聴きながら片足は軽くリズムを刻み、
口は絶えずガムを噛み続けている。
こんな深夜の駅のホームにいる女性は彼女一人だけだった。
まわりの男たちのまとわりつくような、
黄色く澱んだ視線に生理的な嫌悪感を感じながらも、
援助交際で醜悪なオヤジたちの相手をしている彼女にとっては
耐えられないほどのものではない。
中にはスケベ心をむき出しにして近寄る酔っ払いもいたが、
彼女の迫力あるガン飛ばしを喰らうと、すごすごと離れていく。
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