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居酒屋の帰り、荒船と別れて、糸井と南雲は二人きりで深夜の道を歩いた。
南雲はチラチラと何度も糸井に視線を送っては俯きを繰り返している。
糸井は人気が無い事を確かめると、突然、南雲の腕をつかみ、街灯の灯りも届かない路地裏へ連れ込んだ。
「なんだよ、さっきから!おかしいぞお前。言いたい事があるならハッキリ言えよ!」
掴んだ胸ぐらから南雲が小刻みに震えているのが伝わる。
糸井の問いにも答えず、まだチラチラと顔色を窺っているだけだ。
「本当はな。もう分かってるんだよ。蜘蛛の話を始めた途端おかしくなったもんなあ」
南雲はハッと正面を向き、不気味なほど丸く見開いた目を向けた。
身体は震えているのに感情の見えないその目は、どこか虫を思わせた。
「お前なんだろ?蜘蛛は。言ったよな?俺ならぶん殴ってやるって」
感情の見えない目にたじろいだ事を悟らせないよう、あえて顔を近づけて脅した。
「荒船だよ」
ボソッと南雲が呟く。
「は?」
意外な第一声に二の句が継げなくなる。
「荒船なんだ。蜘蛛は荒船なんだよ。だから何度も視線を送ったんだ。話をやめるように。知っている事を知られたくなかったんだ。僕が荒船を蜘蛛だと知っているって知られたくなかった。だから何も言えなかった。話を逸らすようグラスまで倒したんだ。でも糸井はやめてくれなかった。トイレに行った時も糸井がついて来たから、何か盗まれるんじゃあないかと思って急いで戻ったんだ。どっちかは席にいなきゃって思ったんだ」
堰を切ったように話し出す南雲。
急いでカバンを調べる。
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