★SIX★

13/17
前へ
/121ページ
次へ
舜と美織さんが付き合っていなかったということに驚いた。 てっきり、舜は美織さんのことが好きなんだって思ってたのに。 じゃあ、あの時私が別れを告げる必要はなかったってこと? 別れを告げられるくらいなら、こっちから別れを告げようっていう私の決意は――ただの杞憂だったんだ。 バカだ、私。 私のことをまっすぐ好きでいてくれた人に、別れを告げてしまった。 「…あ、美玖。おかえりー」 浩佳が笑顔で私を出迎えてくれた。 6号のボールを持ち、ピンに向かってまっすぐボールを転がす。 一投目は、相変わらずのガーターだ。 「おっしいー!あと少しなのに」 後ろで浩佳が言った。 ピンの目の前でボールは逸れていた。 まるで、私みたいだ。 好きな人が、私のことを好きだって本当はわかっていたんだ。 心の奥底ではわかっていたのに、それを信じようとしなかった。 信じて、後でその信頼を裏切られることを恐れた。 だから、舜は美織さんのことを好きに違いないと思った。 後で好かれていなかったとわかっても、舜は美織さんを好きだったんだから当然だと、自分を強引に納得させうようとした。 実際は、違ったのに。 ただ信じていればよかったのに。何も考えなければよかったのに。 私がボールで、舜がピン。 戻ってきたボールを持ち、もう一度ピンの前に立った。 「バカ野郎ーっ!」 叫びながら、思い切りボールを放った。
/121ページ

最初のコメントを投稿しよう!

58人が本棚に入れています
本棚に追加