58人が本棚に入れています
本棚に追加
舜と美織さんが付き合っていなかったということに驚いた。
てっきり、舜は美織さんのことが好きなんだって思ってたのに。
じゃあ、あの時私が別れを告げる必要はなかったってこと?
別れを告げられるくらいなら、こっちから別れを告げようっていう私の決意は――ただの杞憂だったんだ。
バカだ、私。
私のことをまっすぐ好きでいてくれた人に、別れを告げてしまった。
「…あ、美玖。おかえりー」
浩佳が笑顔で私を出迎えてくれた。
6号のボールを持ち、ピンに向かってまっすぐボールを転がす。
一投目は、相変わらずのガーターだ。
「おっしいー!あと少しなのに」
後ろで浩佳が言った。
ピンの目の前でボールは逸れていた。
まるで、私みたいだ。
好きな人が、私のことを好きだって本当はわかっていたんだ。
心の奥底ではわかっていたのに、それを信じようとしなかった。
信じて、後でその信頼を裏切られることを恐れた。
だから、舜は美織さんのことを好きに違いないと思った。
後で好かれていなかったとわかっても、舜は美織さんを好きだったんだから当然だと、自分を強引に納得させうようとした。
実際は、違ったのに。
ただ信じていればよかったのに。何も考えなければよかったのに。
私がボールで、舜がピン。
戻ってきたボールを持ち、もう一度ピンの前に立った。
「バカ野郎ーっ!」
叫びながら、思い切りボールを放った。
最初のコメントを投稿しよう!