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第一章 半月
司一十三。一十三と書いて、ひとみ、と読む。
県立女子高校普通科に通う十八歳だ。
生後三カ月で、ひまわり孤児院前に捨てられていたらしい。
学業、スポーツ、共に普通。特別良くもなく悪くもなく。
将来の夢もまだよく判らない。
顔も、抜群に美人というわけでも、
目立つ可愛さがあるわけでもないが、いい面魂をしている。
特筆すべきは、肌の色の白さときめ細やかさだ。
それに、唇の色が、口紅を塗っているわけでもないのに、
綺麗なピンク色で艶やかである。
そして、目に不思議な透明感と強さがあり、
いつも真っ直ぐに相手の目を見る。
誰とでも屈託なく話すし、よく笑うが、
一人でいる時は、ボーっとしていて、
何を考えているか判らない印象があった。
女子としては珍しく数学が好きで、一つ変わった特技がある。
一十三が五歳の頃、駄菓子屋の景品の一等賞を当てて、
結構本格的なスリングショットを手に入れた事があった。
強力なゴムで、小石等を飛ばして遊ぶものだ。
一十三は、これがとても気に入った。
河原で小石を拾い、十メートルくらい先に空き缶を立てて、
狙って倒すと、飛び上がって喜んだ。
普通は男の子のやる遊びだが、
一十三はお人形さんとかオママゴトとか、
普通の女の子の遊びがどうも苦手だった。
毎日毎日学校が終わると河原へ行き、
夜遅くまで夢中になってスリングショットで遊んだ。
一十三があまりに熱中するものだから、
孤児院の院長(半田利久、五十五歳男性)は、孤児院の庭に、
防虫ネットと手製の空き缶立てで、
スリングショット訓練場を作ってしまった。
そうしないと、夜遅くいつまでも帰ってこないからだ。
訓練場ができてからは、
スリングショットが一時期、孤児院で流行った。
しかし、誰も一十三に勝てる者はいなかった。
その内皆飽きて誰もやらなくなったが、
一十三だけはずっと続けていた。
中学一年生になる頃には、
二十メートル先の小さいコーヒー缶に、
百発百中で当てられる様になっていた。
院長の半田は元々腕のいい機構設計者だったから、
一十三の手や腕の大きさに合わせて
手作りのスリングショットを作り続けた。
一十三は体が大きくなる度に、もっと強力で、
もっと命中精度の高いものをと、半田に頼む様になった。
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