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二人はまるで職人の様に製作に拘った。
スカートに隠れて見えない様に折りたたみ式にして、
右太腿に装着できる様に専用ベルトも半田が作った。
玉もステンレスではなく、
表面がゴルフボールの様な凹みのあるゴム弾に変えた。
なぜかというと、
一十三はただ真っ直ぐに弾を的に当てるだけではつまらなくなり、
野球の様にカーブとかシュートとか出来ないだろうか、
と考えたからだ。
そして打つ時に、
二本の伸びたゴムの片方だけを少し緩めて打つと、
弾に回転がかかり、軌道が緩めた方へ曲がる事を発見したのだ。
こうして一十三は、
障害物に隠れたコーヒー缶をも倒せる様になった。
これは、真っ直ぐに狙うよりも格段に難しかったが、
それでも夢中になってやりつづけた結果、
やはり百発百中で当てられる様になった。
さらに一十三は、動いている的にも当てられる様になりたくて、
半田に頼んで、クレー射撃の様な装置を作ってほしいと注文した。
半田は張切って作り上げ、一十三は、
これもまた百発百中で当てられる様になった。
こうして一十三は中学三年間、
勉強や部活動等そっちのけで、スリングショットにのめり込んだ。
御蔭で高校に入学できるかどうか危なかったが、
なんとかギリギリ合格できたのだった。
橘葉子、十八歳。
高級デパート全国チェーンの橘百貨店の創業者、
橘徳次郎(八一歳)の孫娘である。
小さい頃から成績優秀で常にトップクラス。
スポーツ万能で性格も明るく、クラスのマドンナ的存在である。
顔もスタイルもスーパーモデル級で、
ファッションモデル、女優業をこなしながら、
テレビのバラエティ番組にもよく出演している。
天は葉子に二物も三物も与えてしまったのだ。
しかし高校三年になってから、
ずっと葉子が気になっていたのが司一十三である。
周囲のクラスメイトの葉子に対する反応は
「スターに対するファン、または嫉妬の対象」
というものだったが、
一十三だけが、特に葉子を意識するわけでも
無視するわけでもなく、
周囲のクラスメイトに対する態度と全く同じだったのだ。
初めは、橘葉子という人間の事を
よく知らないんだろうと思っていた。
しかし、一か月経ち、二か月三か月経っても
一十三の態度はまるで変わらなかった。
それで一体どんな子なんだろうと、
周りのクラスメイトにそれとなく聞いてみた。
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