第1章

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すると、なんと孤児院育ちで特技がスリングショットだという。 興味津々となり葉子の方から頻繁に一十三に話しかける様になった。 登下校も二人でする様になり、 葉子は車での送り迎えを拒否する様になる。 しかしその事が、ある事件を引き起こすきっかけになってしまった。葉子に対する誘拐未遂事件である。 「おい、あれが橘葉子じゃないか?」 一見してヤクザかチンピラという風貌の男二人が、 今にも止まりそうなポンコツ軽自動車の中から下校時間に、 橘葉子と司一十三の二人が出てきた所を確認していた。 「間違いねえ。確かに車の迎えは来てねえな」 二人は顔を見合わせてニヤリと笑い「じゃあ、やるか」 と車でゆっくり葉子と一十三の後をつけ始める。 「この先、人気の無い路地を通る。そん時にこいつでやる」 (クロロホルム)と書かれた瓶を紙袋から取出し蓋を開け、 ハンカチに染み込ませた。 「よし、今だ!」 軽自動車が二人を少し追い越したところで停止した。 チンピラ二人は急いで車から降り、 一十三を押しのけ、葉子の背後から クロロホルムの染み込んだハンカチを口に押し当てた。 いきなり後ろから突き飛ばされた一十三は「うわっ!」と、 女の子らしからぬ声でびっくりする。 男二人が意識を失った葉子を抱え込んで車に乗せようとしたところで、一十三は我に返った。 「何してんだよ!あんたら!」 男二人は、そんな一十三の怒鳴り声を無視して車に乗り込み、 走り去ろうとしている。 一十三はアッと思い出して、急いで自分の右太腿に装着されていた スリングショットを取り出し、左手に装着する。 いつも十発くらいのゴム弾はポケットに忍ばせてある。 素早く弾を二発取り出した。すでに車は走り出している。 見ると、運転席側の窓が空いている。 (よし!)一十三は左手に持ったスリングショットを 逃走している車から、少し右へずらして狙いをつけた。 そして、限界まで引き絞ったゴムを少し緩めた。 一呼吸整え、ゆっくりと息を吐きながら、 周囲の音が消え、いつもの不思議な感覚に研ぎ澄まされてゆく。 ゴム弾の軌道が打つ前からハッキリと判る様な予知にも似た感覚だ。 そして心の引き金と同時に初弾を放った! 弾は大きくカーブを描き、 一十三の思い描いた通りに運転手の側頭部に命中した。 運転手は頭を何かに弾かれた様に助手席側へ倒れ、 そのまま意識を失う。
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