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その時、声が飛んで来た。
「すみません!
ハイド!こっちへ来い!」
途端に、俺に組み付いていたでかい犬が声の方に振り向き、そっちへ駆け出した。
釣られて他の犬達も後に続き、解放された俺は、漸く安堵の息をつく。
起き上がって何が起きたのか辺りを窺うと、背の高い黒髪の男が犬達を呼び集めてリードを束ねている所だった。
男と目が合う。
あれ?
「…荒潟さん?」
荒潟知巳だ。
陽に焼けた肌と独特の風貌は間違いようが無い。
しかし、相手は首を傾げている。
俺は慌てて自己紹介を始めた。
「あの、俺、ジョーズでお世話になった筒海将平です。」
「…世話?」
「いえ、その…。
担いで事務所まで運んで貰って…。」
そこでやっと、俺の事を思い出したらしい。
彼は、
「ああ、あの時の兄ちゃんか。
ちゃんと飯食ってる?」
と言って俺を上から下までじろじろ眺めた。
俺は子供の頃から痩せていて、身長も170センチに届くかどうかだ。
顔も童顔で、23歳になった今でもよく10代と間違われる。
案の定、荒潟が言った。
「飲酒は20歳過ぎてからにしろよ。」
「俺、23です。」
荒潟は目を丸くして、
「へえ…。」
と呟き、驚愕の一言を告げた。
「俺も23。」
ああ、逃げ出したい。
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