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「こいつ、間抜けの甘ったれなんだよ。」
荒潟が溜め息混じりに言う。
「貰い手なくて俺が引き取ったんだが、臆病でいつまでもガキのままだ。」
え?臆病?
馬鹿っぽいけど見ず知らずの俺にじゃれ付くなんて、臆病には思えないけどな…。
荒潟が話しを続ける。
「こいつは仲間と一緒じゃなきゃ散歩さえ出来ない。
いつも家の中に引き籠って、ジキルに相手をして貰ってる。」
「ジキル?」
「ああ、うちの猫。」
ジキル(猫)とハイド(犬)。
俺は思わず尋ねてしまった。
「その名前、荒潟さんが付けたんですか?」
「そうだよ。」
俺がぷっと吹き出すと、彼はきょとんとして言った。
「面白い?」
「はい。変わってます。」
秋吉店長が彼の事を『変わってる』と言った意味が何となく分かった。
でも本人は気付いていないらしい。
俺の車から少し離れた場所に停まっていたワゴン車は、荒潟の車だった。
彼は後部座席に犬達を乗せ、河川公園から去って行った。
思わぬ出来事に見舞われた俺だが、お陰で少し気分が晴れた。
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